ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが、ブラジルのデジタル銀行ヌー・ホールディングス(Nu Holdings)への出資を拡大した。バフェットは長年、仮想通貨に対して懐疑的な立場をとってきたが、今回の動きはその投資戦略に変化が生じつつあることを示唆する。
SEC(米国証券取引委員会)の提出資料によれば、バークシャーは2022年末時点でヌーの株式を0.1%保有していたが、2024年第3四半期には0.4%に増加。現在の保有株数は8,600万株を超え、その評価額は約12億ドルに達する。ヌーバンクは仮想通貨プラットフォーム「Nubank Cripto」を展開し、デジタル資産の取引を拡大している。
バフェットは過去にビットコインを「ネズミ殺しの毒を二乗したようなもの」と評し、仮想通貨を徹底して否定してきた。だが、今回の出資拡大は、単なる仮想通貨批判から脱却し、デジタル金融の成長を見据えた戦略の一環とも考えられる。市場環境が変化する中、慎重な投資姿勢を維持しつつも、新たな可能性に対応する姿勢が垣間見える。
ヌーバンクの成長と仮想通貨市場への積極的な関与
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ブラジルのデジタル銀行ヌー・ホールディングス(Nu Holdings)は、急成長を遂げる金融機関の一つであり、特にデジタル資産分野への進出が注目されている。バークシャー・ハサウェイが同社への出資を拡大した背景には、ヌーバンクの急速な成長と、仮想通貨市場での影響力強化があると考えられる。
ヌーバンクは2021年にシリーズG資金調達ラウンドを実施し、バークシャー・ハサウェイから5億ドルの投資を受けた。その後、2022年には2億5,000万ドルを追加投資し、2024年には保有株式比率を0.4%まで引き上げた。同社の金融サービスは従来の銀行業務にとどまらず、「Nubank Cripto」という仮想通貨プラットフォームを展開し、デジタル資産の取引・保有・送金を可能にしている。
このプラットフォームは、当初ビットコイン(Bitcoin)、イーサリアム(Ethereum)、ポリゴン(Polygon)を取り扱っていたが、その後ユニスワップ(Uniswap)やチェーンリンク(Chainlink)などのアルトコインにも対応を広げた。ユーザーの利便性を向上させることで、ブラジル市場を中心に急速にシェアを拡大している。
ヌーバンクの成長は、新興市場におけるデジタル金融の変革を示すものであり、従来型の銀行業務から脱却したビジネスモデルの成功例とも言える。バークシャー・ハサウェイがこのような企業への出資を拡大したことは、同社の金融市場に対する認識の変化を象徴しているといえる。
バフェットの仮想通貨批判と投資拡大の矛盾をどう解釈するか
ウォーレン・バフェットは長年にわたり、仮想通貨に対して否定的な立場を貫いてきた。2018年のCNBCインタビューでは、仮想通貨市場について「最終的には悪い結末を迎える」と述べ、ビットコインを「ネズミ殺しの毒を二乗したようなもの」と評した。しかし、今回のヌーバンクへの投資拡大は、この姿勢と相反するようにも見える。
ただし、バークシャー・ハサウェイは直接的に仮想通貨を購入したわけではなく、デジタルバンキングやフィンテックの成長に賭けた形である。ヌーバンクは仮想通貨プラットフォームを提供する一方で、伝統的な銀行業務も行っており、収益基盤は仮想通貨取引に依存していない。この点を踏まえると、バフェットの基本姿勢に大きな変化があったとは断定できない。
また、バークシャー・ハサウェイは従来から慎重な投資スタンスを維持しており、ヌーバンクへの出資も市場環境を見据えた長期的な戦略の一環と考えられる。特に、ブラジルなどの新興市場ではデジタル金融サービスの需要が高まり、従来の銀行と競争できるフィンテック企業が次々と登場している。この動向を見極めた上での投資である可能性が高い。
つまり、今回の出資拡大は、バフェットの仮想通貨観の変化というよりも、デジタルバンキングの成長性に着目した合理的な判断であるといえる。仮想通貨自体への投資ではなく、フィンテック市場の成長に伴う収益機会を捉えた形であり、これまでの投資哲学と完全に矛盾するものではない。
市場の変化とバークシャー・ハサウェイの慎重な投資戦略
バークシャー・ハサウェイの投資戦略は一貫して慎重であり、短期的な市場変動に左右されることはない。事実、同社は2024年末時点で3,250億ドル以上の現金を保有し、その多くを米国債に投資している。これは、バークシャー・ハサウェイがリスクの高い資産に依存せず、安定したリターンを求める企業であることを示している。
そのため、ヌーバンクへの出資拡大も、市場全体の流れに迎合するのではなく、長期的な成長を見据えた判断と考えられる。特に新興市場では、従来の銀行インフラに代わるデジタル金融の需要が急速に高まっており、ヌーバンクのような企業が金融の中心に躍り出る可能性が高い。
一方で、仮想通貨市場のボラティリティは依然として高く、政策リスクや規制強化の影響を受けやすい。バークシャー・ハサウェイが仮想通貨企業ではなく、金融サービス全般を展開するヌーバンクに投資したことは、このリスクを回避するための慎重なアプローチとも考えられる。
今後、ヌーバンクがどのように成長し、仮想通貨市場との関わりを深めていくかは注目に値する。しかし、バークシャー・ハサウェイが仮想通貨自体に直接的な投資を行う可能性は低く、今後も慎重な投資戦略を継続することが予想される。
Source:Coin Edition