米国のドナルド・トランプ前大統領が中国からの輸入品に10%の関税を課す方針を示したことで、Apple(NASDAQ: AAPL)を含むハイテク企業の株価が市場で変動している。Appleは中国に広範なサプライチェーンを持つため、その影響が注目されているが、アナリストの評価は分かれている。

バンク・オブ・アメリカのワムシ・モハン氏は、関税による影響は「管理可能」とし、Appleの目標株価を265ドルに設定。短期的な株価下落はあるものの、同社の財務基盤と価格戦略により長期的な影響は軽微と分析する。一方で、競合アナリストの中には、AppleのAI戦略の遅れや消費者の購買意欲低下が、株価の押し下げ要因になり得ると警戒する声もある。

市場では、Appleの対応次第で関税の影響が最小限に抑えられる可能性があるとの見方があるが、同時にiPhoneの販売動向やAI技術の導入が今後の成長に影響を及ぼすことも指摘されている。投資家は貿易政策の変化とテクノロジー分野の進展を注視する必要がありそうだ。

関税の影響を受ける企業と市場全体への波及効果

Appleが中国からの輸入品に対する10%の関税措置の影響を受ける中、同様に影響を受ける企業は多岐にわたる。特に、エレクトロニクス業界では、Appleと同じく中国に依存する企業が多く、サプライチェーン全体のコスト上昇が懸念されている。

Microsoft(NASDAQ: MSFT)やDell(NYSE: DELL)といったPCメーカー、Tesla(NASDAQ: TSLA)などのEVメーカーも、中国での製造や部品調達に依存しており、同様のリスクに直面している。これらの企業はAppleと異なり、中国市場自体にも大きく依存しているため、関税による価格転嫁がより難しい状況にある。

一方、関税措置の影響はハイテク企業だけに留まらない。ウォルマート(NYSE: WMT)やターゲット(NYSE: TGT)などの小売業者も、中国からの輸入製品のコスト増に直面している。これにより、消費者向け製品の価格上昇が進み、米国内のインフレ圧力が強まる可能性がある。

市場全体では、関税措置による不透明感が投資家心理を冷やし、特にナスダック指数に影響を及ぼしている。Appleの株価が下落したことで、関連企業の株価にも連鎖的な影響が及んでおり、ハイテク株全体のボラティリティが高まっている。このような状況下では、各企業の対応策が今後の株価動向を左右する重要な要素となるだろう。

トランプ政権の関税政策とAppleの過去の対応

トランプ氏の第1期政権時、米中間の貿易戦争が激化する中でAppleは関税の影響を回避するための対応策を講じてきた。特に、iPhoneの関税免除措置を獲得し、価格上昇を抑えることで消費者への影響を最小限に抑えた経緯がある。

Appleは当時、トランプ政権との交渉を通じて、米国内での雇用創出や投資拡大を強調し、関税負担の軽減を求めた。結果として、iPhoneの輸入関税は適用を免れ、同社の製品価格は維持された。一方で、Mac Proなど一部の製品は関税の影響を受け、価格調整を余儀なくされた例もあった。

今回の10%関税に対しても、Appleが同様の戦略を採る可能性があるが、前回とは異なる要因もある。バイデン政権下では中国との対立が継続しており、仮にトランプ氏が再び大統領に就任した場合、さらに厳しい貿易政策が取られる可能性がある。このため、Appleが長期的なサプライチェーン戦略を再構築する必要性が高まっている。

また、米国国内での製造拡大の可能性も取り沙汰されている。Appleはすでにテキサス州でMac Proの組み立てを行っており、今後の状況次第では、さらなる国内生産の強化が検討されるかもしれない。ただし、コストや生産能力の観点から、大規模な移行は現実的ではないとの指摘もある。

Appleの長期的な成長戦略と投資家の視点

関税の影響を受ける中でも、Appleの長期的な成長戦略には注目が集まっている。特に、同社が今後どのように新技術を活用し、収益基盤を強化していくのかが市場の関心を集めている。

現在、Appleはウェアラブルデバイスやサービス部門の拡大に注力しており、これらの分野がiPhone依存からの脱却を支えると期待されている。Apple WatchやAirPodsの販売は好調を維持しており、これらの製品は中国以外のサプライチェーンからの調達比率が高いため、関税の影響を受けにくい点も強みとなる。

また、サービス部門の成長も見逃せない。Apple MusicやiCloud、App Storeの売上は安定しており、ハードウェア販売の変動に左右されにくい収益モデルを構築している。特に、サブスクリプションサービスの拡充は、今後の収益の安定化に寄与すると見られている。

さらに、Appleの将来的な成長要因として、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)市場への本格参入がある。すでに「Apple Vision Pro」の発表を行い、新たな市場開拓に向けた動きを加速させている。この分野ではMeta(NASDAQ: META)やMicrosoftと競争が激化しているが、Appleのブランド力とエコシステムの強みを活かすことで、シェア獲得が期待される。

こうした中で、投資家はAppleの短期的な株価の変動にとらわれず、長期的な成長戦略を見極めることが求められている。関税の影響は一定程度避けられないものの、Appleの多角化戦略が奏功すれば、安定した成長が続く可能性がある。今後の新製品発表や市場動向に注目が集まるだろう。

Source:Finbold