2008年のサブプライム危機を予見したことで知られる投資家マイケル・バーリ氏が率いるサイオン・アセット・マネジメントは、2024年第3四半期に中国のEコマース大手JD.com(NASDAQ: JD)の株式を50万株、評価額2,000万ドルにまで倍増させた。
JD.comの株価は過去1年間で70%以上上昇し、2025年に入ってからも18%の上昇を見せている。同社はチリブランドとの提携を通じて高級品の販売強化を図り、AIを活用した供給網と物流体制の強化に努めている。
アナリストもJD.comに対して強気の見解を示しており、ジェフリーズは目標株価を54ドルから60ドルに引き上げ、「買い」評価を維持している。これらの要因から、JD.comの株価は依然として割安であり、長期投資家にとって魅力的な投資機会となり得る。
JD.comの成長を支える要因と今後の展望
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JD.comは中国のEコマース市場で確固たる地位を築いているが、その成長を支えているのは単なるオンライン販売ではない。同社は物流網の強化、オムニチャネル戦略の推進、海外展開の加速といった複数の戦略を同時に展開している。特に注目すべきは、AIを活用した物流の最適化と、海外ブランドとの提携による市場拡大である。
JD.comは過去数年にわたり、AI技術を駆使した物流ネットワークを強化してきた。独自の倉庫管理システムや配送ロボットを導入することで、配送スピードの向上とコスト削減を実現している。例えば、2024年の「独身の日」セールではAIを活用した予測システムにより、注文から配送までのリードタイムを大幅に短縮した。これにより、JD.comの物流は業界内でも競争力を持つものとなっている。
また、同社はオンラインとオフラインを融合させるオムニチャネル戦略を推進している。直営店舗「JD MALL」や食品専門店「7FRESH」を通じて、消費者にシームレスな購買体験を提供している。オンラインだけでなく、リアル店舗での顧客接点を強化することで、競合他社との差別化を図っている。この戦略は特に都市部の富裕層やミレニアル世代をターゲットにしており、高級食品やプレミアム家電の売上向上につながっている。
さらに、JD.comは海外ブランドとの提携を加速させている。最近では、チリのブランドと協力し、高級ワインやサクランボ、サーモンなどの輸入販売を強化した。こうした高付加価値商品の取り扱いは、JD.comのブランド価値向上にも貢献している。海外市場との連携を強めることで、同社は中国国内市場だけでなく、国際市場でも影響力を拡大していく可能性がある。
株価の割安感と投資家の視点
JD.comの株価は、過去1年間で70%以上の上昇を見せたものの、依然として割安感があると評価されている。これは、同社の成長性と収益力を考慮した際に、現在のバリュエーションが市場平均と比較して低い水準にあるためである。実際、JD.comのPER(株価収益率)は12.94であり、米国や中国の同業他社と比較すると相対的に低い値を示している。
一般的に、PERが低い企業は収益に対して株価が過小評価されている可能性がある。JD.comの場合、堅調な成長が続く中での低PERは、長期的な投資機会として魅力的な状況を示唆している。これを裏付けるように、金融機関のアナリストもJD.comの成長性に対して強気の見解を示している。ジェフリーズはJD.comの目標株価を54ドルから60ドルに引き上げ、「買い」評価を維持している。BOCOM Internationalも売上予測を3%上方修正し、利益予測を12%引き上げた。
また、中国のEコマース市場は引き続き拡大を続けており、JD.comはその中心的プレイヤーとしての地位を確立している。同社はコスト削減と利益率向上を両立させる経営戦略を採用しており、競争の激しい市場環境においても安定した成長を維持する可能性が高い。特に、AIを活用した物流の最適化や高級品市場への参入は、同社の競争優位性をさらに強化する要因となるだろう。
とはいえ、JD.comにはいくつかのリスク要因も存在する。中国政府の規制強化や経済減速の影響を受ける可能性があり、これが株価のボラティリティを高める要因となる。加えて、競争が激化するEコマース市場では、アリババや拼多多(Pinduoduo)といったライバル企業の動向も無視できない。これらの競争要因を踏まえた上で、投資家は慎重に判断する必要がある。
マイケル・バーリの投資スタンスとその影響
マイケル・バーリは、2008年の金融危機を予見したことで知られるが、彼の投資手法は独自性が高く、市場のトレンドに逆張りすることが多い。今回のJD.com株への投資も、その戦略の一環と考えられる。彼のファンドであるサイオン・アセット・マネジメントは、2024年第3四半期にJD.comの保有株式を50万株に倍増させ、投資額は2,000万ドルに達した。
バーリがJD.comに注目した背景には、同社の成長性だけでなく、現在の株価が割安であるとの見方があると考えられる。彼の過去の投資スタイルを振り返ると、過小評価されている企業に積極的に投資し、市場がその価値を認識したタイミングで利益を得る戦略を取る傾向がある。今回のJD.comへの投資も、長期的な価値を見据えたものと考えられる。
バーリの投資は市場に影響を与えることが多く、彼の銘柄選定が公になると、それに追随する投資家が増加することがある。今回のJD.com株の購入も、一定の影響力を持つ可能性があり、特に米国市場の投資家にとっては新たな注目銘柄となるかもしれない。
ただし、バーリの投資が必ずしも短期的な株価上昇につながるわけではない。彼の投資先は一時的に市場の評価が低い場合が多く、その価値が市場に認識されるまでには時間がかかることもある。したがって、JD.comの株価が直ちに急上昇するとは限らず、長期視点での投資判断が求められる。
Source:Finbold