米国の通商政策を担う次期通商代表候補ジェイミソン・グリアー氏が、上院財政委員会の公聴会で関税政策に関する自身の考えを示した。彼は、関税を貿易赤字の削減や政府財源の確保に活用すべきだと主張し、過去の米国経済の成功例と比較しながらその有効性を強調した。
一方で、民主党議員からは関税が消費者価格を押し上げ、同盟国との関係を悪化させる可能性があるとの批判も相次いだ。上院での承認可否や、トランプ政権の通商戦略がどのように展開されるのかが注目される。
関税の歴史的役割と現代経済への適用
関税は長らく国家財政の柱の一つであり、米国でも19世紀後半に経済成長の要因とされた。しかし、現代の経済構造は大きく変化しており、当時の成功事例がそのまま現在に適用できるかは議論の余地がある。
19世紀の米国は、国内産業を保護するため高関税政策を採用し、結果として製造業が発展した。特に、鉄鋼や繊維などの産業は政府の関税政策の恩恵を受け、輸入品との競争を回避することで成長を遂げた。しかし、同時に関税は消費者の負担となり、高価格が経済全体の成長を制約する要因ともなった。
現代の米国は、自由貿易を前提としたグローバル経済の一部であり、関税を引き上げることは単純に国内産業の成長を促すとは限らない。むしろ、貿易相手国の報復関税による輸出の減少や、国内の生産コスト上昇につながる可能性が指摘されている。実際に、トランプ政権下では特定の製品に対する関税が導入されたが、企業はコスト増を価格転嫁することで消費者物価が上昇した。
また、関税が財源として有効かどうかについても意見が分かれる。1913年に米国が所得税を導入する以前は関税収入が政府予算の大半を占めていたが、現在ではその割合はわずかである。国の財政規模が大きく拡大した現代において、関税収入だけで政府を維持するのは現実的ではない。
このように、グリアー氏の主張する関税の有効性は、歴史的な文脈を考慮しつつ、現代の経済構造に照らして慎重に検討する必要がある。
貿易赤字解消の手段としての関税の限界
グリアー氏は、米国の貿易赤字削減を最優先課題の一つとして挙げ、関税をその解決策と位置づけた。しかし、貿易赤字の背景には複雑な要因が絡んでおり、単純に関税を導入することで是正できるわけではない。
米国の貿易赤字は、国内消費の拡大と輸入依存度の高さが主因とされる。米国の消費者は海外製品を多く購入しており、関税をかけたとしても国内で代替品が供給できなければ、価格上昇という形で影響を受ける。実際、トランプ政権が中国製品に関税を課した際、多くの企業は製造拠点を東南アジアなどに移すことで対応し、中国からの輸入を直接削減するには至らなかった。
また、貿易赤字は必ずしも経済にとって悪いことではないとの見方もある。例えば、米国の貿易赤字の増加は、外国からの資本流入と密接に関係している。海外投資家が米国の資産を購入し、ドルを需要することで貿易赤字が拡大するという側面もあり、必ずしも経済の弱体化を示す指標ではないという指摘もある。
さらに、関税は貿易赤字削減の有効な手段とは言い切れない。仮に関税が輸入品の価格を引き上げたとしても、国内の供給が追いつかなければ、消費者が負担するだけとなる。また、貿易相手国が報復措置を講じることで、米国の輸出企業がダメージを受ける可能性もある。こうした点を考慮すると、貿易赤字の解消には関税以外の手段も検討すべきだろう。
関税政策がもたらす国際関係への影響
関税政策は国内経済への影響だけでなく、外交や国際関係にも大きな波紋を広げる。特にトランプ政権下での関税措置は、米国の同盟国との関係に影響を与えた。
例えば、トランプ氏はカナダとメキシコに対して25%の関税を課すと発表し、両国に対して麻薬密輸や移民問題の対策を強化するよう圧力をかけた。この戦略は一時的な譲歩を引き出すことに成功したものの、カナダやメキシコとの経済関係に不確実性をもたらし、USMCA(米・メキシコ・カナダ協定)の交渉にも影響を及ぼした。
また、中国との関税戦争も世界経済に影響を与えた。トランプ政権は中国製品に対して10%の関税を課し、これに対抗して中国も米国製品に報復関税を実施。結果として、両国間の貿易額は減少し、世界のサプライチェーンに混乱をもたらした。さらに、関税戦争は多国間の貿易ルールを揺るがし、世界貿易機関(WTO)に対する信頼を低下させる要因ともなった。
今後、グリアー氏が通商代表に就任すれば、こうした関税政策をどのように推進するかが焦点となる。仮にトランプ氏が再び大統領に就任すれば、関税を外交手段として利用する戦略が継続される可能性が高い。しかし、同盟国との関係を悪化させるリスクや、報復措置による経済への影響も考慮しなければならない。
関税は単なる貿易政策ではなく、外交カードとしての側面も持つ。短期的な交渉手段としては有効かもしれないが、長期的な視点で見た場合、関税政策が米国の国際的な影響力を高めるのか、それとも損なうのかは慎重に判断する必要がある。
Source:Investopedia