アリババの株価(NYSE: BABA)が急騰し、市場の注目を集めている。中国市場におけるeコマースの巨人である同社は、近年クラウドやAI分野に積極的に進出し、テクノロジー企業としての存在感を強めている。
2023年第3四半期の決算では、1株当たり利益(EPS)が市場予想を上回ったことが好感された。しかし、投資家心理を大きく押し上げたのはAI事業の成長だ。AI関連の売上は6四半期連続で3桁成長を記録し、新型AIモデル「Qwen 2.5」の発表が期待を高めた。
また、CEOのエディ・ウー氏はAI・クラウド分野への巨額投資を表明。加えて、自社株買いプログラムの拡充やAppleとの提携も株価の追い風となり、投資家の関心を一段と高めている。
AI分野への積極投資が示すアリババの成長戦略

アリババは近年、AIとクラウドコンピューティングへの投資を加速させている。2023年第3四半期決算では、AI関連の売上が6四半期連続で3桁成長を達成し、クラウド事業も前年比13%増を記録した。さらに、同社は最新のAIモデル「Qwen 2.5」を発表し、競争が激化する生成AI市場での存在感を高めようとしている。
この背景には、CEOエディ・ウー氏の明確な戦略がある。ウー氏は、今後3年間でAIおよびクラウド分野への投資額を過去10年間の総額を超える規模にする方針を示している。ただし、具体的な投資額には言及しておらず、市場の期待を維持しつつ柔軟に対応する姿勢が見られる。
一方で、アリババのAI戦略は自社のクラウドプラットフォームを軸とする形になっており、AIの計算処理に必要なインフラも提供している点が強みといえる。しかし、AI開発には巨額の資本が必要であり、競合の百度やテンセント、さらには米国のOpenAIやGoogleなどと比較して、どこまで持続的な競争力を確保できるかが今後の焦点となる。
Appleとの提携がもたらす中国市場での優位性
アリババは最近、Appleとの提携を発表し、中国市場向けのiPhoneに自社のAI機能を統合することが明らかになった。この動きは、中国政府の規制が厳しさを増す中で、外資系企業が現地テクノロジー企業との連携を強める傾向を示すものといえる。
Appleにとって、中国は重要な市場であるが、米中関係の悪化や競争の激化により、シェアの維持が難しくなっている。一方、アリババにとっては、Appleとの提携を通じてAI技術のプレゼンスを高め、競合との差別化を図る狙いがあると考えられる。特に、iPhoneにアリババのAIが組み込まれることで、Appleユーザーをアリババのエコシステムに取り込む可能性が高まる。
しかし、政府の規制や市場の反応によっては、提携の方向性が変わる可能性もある。中国当局はデータ保護やアルゴリズムの透明性を強く求めており、アリババのAI技術がどこまで許容されるのかが今後の課題となるだろう。それでも、Appleの影響力を活用することで、アリババのAI事業は新たな成長機会を得る可能性がある。
自社株買いの拡大が示すアリババの経営判断
アリババは2023年第3四半期に約13億ドル相当の自社株買いを実施し、さらに2027年3月までに最大207億ドルの自社株買いを行う計画を発表した。自社株買いは株主への還元策として市場で好意的に受け止められることが多く、今回の発表も株価上昇の一因となったと考えられる。
自社株買いの背景には、アリババのキャッシュフローの安定性がある。AIやクラウド事業への投資を積極的に行いながらも、十分な資金を確保し、余剰資本を株主還元に充てる余裕がある点は投資家にとって重要な指標となる。また、市場に出回る株式数を減らすことで、1株あたりの価値を高める効果も期待される。
しかし、長期的な視点では、自社株買いが株価の安定をもたらす一方で、成長投資とのバランスをどう取るかが重要になる。アリババはAIやクラウド事業の競争が激化する中で、持続的な成長を確保するために資本の最適な配分を求められる。自社株買いの拡大が一時的な株価押し上げにとどまるのか、それとも企業価値の向上につながるのか、今後の経営戦略が注目される。
Source:Finbold