台湾積体電路製造(TSMC)は、2024年第4四半期に純利益が前年同期比57%増の3,746.8億台湾ドル(約113.7億米ドル)となり、過去最高を記録した。これは、人工知能(AI)チップの需要急増が主な要因であり、売上高も38.8%増の8,684.6億台湾ドル(約263.6億米ドル)に達した。

一方、量子コンピューティング分野では、Alphabetが新たな量子チップ「Willow」の画期的な成果を発表し、同社株価が上昇したものの、Nvidiaのジェンスン・ファンCEOが「実用的な量子コンピューティングの登場は15~30年後」と指摘するなど、技術の商業化には時間がかかるとの見解が示されている。

これにより、D-Wave QuantumやRigetti Computingなどの量子関連企業の株価は下落傾向にある。現時点で、AI関連株は堅調な成長を見せているが、量子コンピューティング株は依然として不確実性が高く、投資家は慎重な判断が求められる。

AIチップの需要がTSMCの成長を支える構造

TSMCの成長を支える最大の要因は、AIチップ市場の急拡大である。同社は世界最大の半導体受託製造企業であり、NvidiaやApple、AMD、Broadcomといった主要企業に最先端の半導体を供給している。特に、AI向けの高性能チップの製造において圧倒的な市場シェアを誇り、7ナノメートル以下の先端プロセス技術では約90%の支配率を持つ。2024年第4四半期には、TSMCの売上の74%がこの先端チップからのものであり、AI市場の成長とともに売上高が38.8%増加した。

この急成長の背景には、Nvidiaの「H100」および次世代「Blackwell」アーキテクチャの需要増がある。これらのGPUは、大規模言語モデル(LLM)や生成AIにおいて不可欠な計算能力を提供し、データセンター市場における需要を加速させている。TSMCはまた、AI特化チップの開発を進めるスタートアップ企業とも協業を強化しており、新たな市場の創出を狙っている。

一方、AIチップの高まる需要がもたらすリスクもある。TSMCは台湾に製造拠点を集中させており、地政学的リスクが増大している。また、米国や日本での工場建設を進めているが、コストの増大と技術移転の課題も存在する。今後、AI市場の成長が続くとしても、供給網の安定性と価格競争力を維持できるかが、TSMCの成長を左右する要素となるだろう。

量子コンピューティング株の乱高下と実用化の壁

一方、量子コンピューティング市場は、依然として不安定な状況にある。Alphabetが新しい量子チップ「Willow」を発表し、スケールアップによる誤差の指数関数的削減を実証したことで、短期的には市場の期待が高まった。しかし、1月に入ると、Nvidiaのジェンスン・ファンCEOやMetaのマーク・ザッカーバーグCEOが「量子コンピューティングの実用化はまだ先」と指摘し、投資家の熱が冷めた結果、D-Wave Quantum、Rigetti Computing、Quantum Computing、IonQなどの株価が下落した。

量子コンピューティングの実用化には、多くの技術的課題が残されている。現在の量子ビット(キュービット)はエラー耐性が低く、大規模な計算に必要な安定性を確保できていない。また、量子アルゴリズムの開発も進んでいるが、商業的に活用できる範囲は限られており、量子優位性を発揮する場面はごく一部にとどまっている。さらに、量子コンピューターの運用コストも高く、従来のスーパーコンピューターと比較してコストパフォーマンスの優位性を示すのは難しい。

このような背景から、量子コンピューティング市場は長期的な投資を前提とする分野であり、短期的な株価の変動に左右されるべきではない。しかし、Microsoftが「Quantum Ready」イニシアチブを発表し、Nvidiaが「Quantum Day」を開催するなど、大手企業も技術開発への関心を示している。市場の期待値は高く、今後の技術革新次第では、量子コンピューティングの商業化が加速する可能性はある。

AI市場と量子コンピューティング市場の投資判断

AIと量子コンピューティングは、どちらも未来の技術として注目されているが、投資判断においては大きな違いがある。AI市場はすでに実用化が進み、TSMCやMicron Technology、Nvidiaといった企業が確固たる収益基盤を築いている。特に、AI向けの半導体需要は2025年以降も拡大が予測されており、企業の成長性も高い。

一方で、量子コンピューティング市場は依然として黎明期にあり、技術の進化が収益化に結びつくまでには時間がかかる可能性がある。AlphabetやIBMなどの大手企業は研究開発に多額の投資を行っているが、D-Wave QuantumやRigetti Computingなどの専門企業は未だ安定した収益を確保できていない。特にIonQのように、高い時価総額に対して収益規模が小さい企業は、市場の楽観的な期待に支えられている部分が大きく、リスクが伴う。

現時点では、AI市場の成長は確実性が高く、TSMCやMicron Technologyのような企業は投資対象として魅力的である。一方で、量子コンピューティング市場に投資する場合は、長期的な視点が必要であり、技術の進化や実用化の進展を慎重に見極める必要があるだろう。

Source:Dataconomy