イーライリリー(NYSE: LLY)は、GLP-1受容体作動薬の分野でノボ・ノルディスクと並ぶ重要なプレーヤーとなった。糖尿病および肥満治療薬「マンジャロ」「ゼップバウンド」の成功を背景に、同社の売上は急成長し、2024年第3四半期にはマンジャロの売上が前年同期比114%増を記録した。

2025年以降は、経口GLP-1治療薬「オルフォグリプロン」や、より強力な体重減少効果が期待される「レタルトチド」の開発が進む。さらに、がん治療領域でも「ベルゼニオ」の売上が前年同期比38%増となるなど、パイプラインの多様化が進んでいる。

株価は2024年後半から調整局面にあるものの、GLP-1製剤の供給拡大や新薬開発の進展により、長期的な成長期待は依然として高い。2025年の売上予想は580億~610億ドルとされており、新市場の開拓と技術革新が鍵を握る。

GLP-1市場の競争激化とイーライリリーの戦略

GLP-1受容体作動薬市場は、イーライリリーとノボ・ノルディスクの2強体制となりつつある。ノボ・ノルディスクの「オゼンピック」「ウェゴビー」に対し、イーライリリーは「マンジャロ」「ゼップバウンド」で急速に市場を拡大した。特に「マンジャロ」は2024年第3四半期に前年比114%の売上増を記録し、安定した供給体制を背景に市場シェアを拡大した。

しかし、競争は激しさを増している。ノボ・ノルディスクもGLP-1の生産能力を増強しており、新たな市場開拓を進めている。また、他の製薬企業もGLP-1市場に参入する可能性があり、イーライリリーにとって安定的な成長には追加の差別化戦略が必要となる。

これに対し、イーライリリーは生産能力の拡張と新製品開発の両面で対応を進めている。アイルランドのリムリックとキンセールの工場拡張に18億ドルを投資し、GLP-1製剤の供給能力を強化。さらに、経口GLP-1受容体作動薬「オルフォグリプロン」の開発を進め、2026年前半の承認を目指している。こうした取り組みが功を奏すれば、競争が激化する市場においても優位性を維持できる可能性が高い。

新たな成長の鍵となるがん治療領域

イーライリリーの成長戦略はGLP-1市場だけにとどまらない。がん治療領域においても、強力なパイプラインを構築しつつある。特に、乳がん治療薬「ベルゼニオ」は2024年第3四半期の売上が前年同期比38%増となり、同社の収益拡大を支える柱の一つとなった。

また、イーライリリーはがん治療のポートフォリオを強化するため、Scorpion Therapeutics社から25億ドルで「STX-478」を買収。これはPI3Kα変異を標的とする次世代のがん治療薬であり、精密医療の分野で大きな進展が期待されている。こうした買収戦略により、同社はGLP-1治療薬以外の分野でも着実に収益基盤を拡大しようとしている。

市場の反応としては、がん治療領域の強化に対してポジティブな評価が見られる一方で、GLP-1治療薬ほどの急速な成長は難しいとの指摘もある。しかし、がん治療領域は長期的な成長が期待される分野であり、特にPI3Kα変異をターゲットとする治療法は新たな治療オプションとして注目を集めている。今後の臨床試験の進捗が、イーライリリーのがん領域での競争力を左右するだろう。

株価調整の背景と今後の見通し

イーライリリーの株価は2025年1月時点で$804.87と、1年間で25.1%の上昇を記録した。しかし、2024年7月末に最高値$973をつけた後、2025年1月までに4%以上の下落を見せている。この調整局面の背景には、急成長してきたGLP-1治療薬市場の成長速度がやや鈍化しているとの見方がある。

CEOのデイビッド・A・リックス氏によれば、米国のインクレチン市場(GLP-1市場)は2024年第4四半期までに前年比45%成長を遂げたが、市場予想よりも緩やかな成長となる可能性が示唆されている。加えて、2025年の売上予測が市場予想を下回ったことも、短期的な株価下落の要因となったと考えられる。

一方で、イーライリリーは2025年の売上を580億~610億ドルと予想しており、GLP-1製剤の供給増強や新薬の開発進捗による業績回復が期待される。また、FDAが「ゼップバウンド」をOSA(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)の治療薬として承認したことも、新たな市場拡大の追い風となる可能性がある。こうした動向が投資家の信頼回復につながるかどうか、2025年前半の業績発表が重要なポイントとなるだろう。

Source:MarketBeat