米広告技術企業The Trade Deskは、2024年第4四半期の売上高が7億4,100万ドルとなり、同社が予想していた7億5,600万ドルを下回った。これを受け、時間外取引で株価は27%下落した。

CEOのジェフ・グリーン氏は「今回の結果は一連の小さな実行上のミスが積み重なったもの」と説明し、2024年12月に組織再編を実施したことを明らかにした。今後はコネクテッドTV(CTV)やリテールメディア、音声広告などの分野で成長を図る方針だ。

また、GoogleやAmazonの動向も同社にとっての成長機会と捉えている。一方で、純利益は前年同期の9,700万ドルから1億8,200万ドルへと増加しており、通年では売上高が前期比25.6%増の24億4,483万ドル、営業利益は2.1倍の4億2,716万ドルと堅調な成長を示している。

業績予想未達の背景—広告市場の変化とThe Trade Deskの課題

The Trade Desk(TTD)の第4四半期業績が予想を下回った背景には、広告市場の変化と同社の事業戦略上の課題がある。デジタル広告市場全体は成長を続けているが、プライバシー規制の強化やサードパーティクッキーの廃止といった要因が、広告技術企業のビジネス環境に影響を及ぼしている。特に、AppleのApp Tracking Transparency(ATT)導入以降、広告主はターゲティング精度の低下に直面し、広告費の配分を見直している。Googleも2024年からChromeのサードパーティクッキーを段階的に廃止しており、広告のパフォーマンス計測が難しくなっている。

こうした環境下で、TTDは独自のUnified ID 2.0(UID2)を活用し、クッキーに依存しない広告配信を進めてきた。しかし、UID2の導入は一部の広告主や媒体社に限られ、業界全体に広がるには時間を要する。加えて、ブランド広告主との直接取引の強化を進める中で、従来の広告代理店との関係性にも変化が生じている。広告費をめぐる競争が激化する中、こうした市場の変化が短期的にTTDの成長を鈍化させた可能性がある。

しかし、長期的にはプログラマティック広告市場の成長が続くと見られ、TTDの戦略が正しければ、将来的に業績を回復させる可能性は十分にある。同社は2024年12月に組織再編を実施し、広告主ごとの担当体制を見直した。これにより、ブランド広告主との関係を強化しつつ、代理店との協力関係も維持する狙いがある。市場の変化に適応できるかが、今後の成長を左右する重要なポイントとなる。

GoogleとAmazonの動向—The Trade Deskにとっての新たな機会

GoogleとAmazonは、デジタル広告市場の二大巨頭として君臨しているが、彼らの戦略の変化がTTDにとって新たな成長機会となる可能性がある。特にGoogleは、独占禁止法の問題を抱えており、広告事業の一部を見直す動きを見せている。近年、Googleはオープンインターネット市場向けの広告ビジネスを縮小し、YouTubeやGoogle検索といった自社のエコシステム内での広告展開を強化している。仮にGoogleがオープンウェブの広告ビジネスから撤退する方向に進めば、TTDのような独立系広告技術企業にとっては市場シェアを拡大するチャンスとなる。

一方、Amazonもまた、広告ビジネスにおいて特有の課題を抱えている。同社はeコマースを軸に広告事業を急拡大させてきたが、広告主の多くがAmazonと直接的な競争関係にある企業である。たとえば、P&GやUnileverのような消費財メーカーにとって、Amazonは販売チャネルであると同時に自社ブランド製品の競争相手でもある。こうした状況下で、Amazonの広告プラットフォームを活用しつつも、第三者の広告配信プラットフォームを利用する広告主が増える可能性がある。

TTDはこうしたGoogleとAmazonの動向を見極めながら、ブランド広告主との直接取引を強化する戦略を打ち出している。既存の広告代理店との関係を維持しつつ、ブランドとの直接契約を増やすことで、より安定した広告収益の基盤を築こうとしている。JBP(Joint Business Plan)を活用し、広告主との戦略的パートナーシップを拡大する動きも、その一環といえる。GoogleとAmazonの広告戦略が変化する中、TTDがどのように市場の隙間を埋めるかが今後の焦点となる。

新たな成長領域—コネクテッドTVとオーディオ広告の可能性

The Trade Deskは、コネクテッドTV(CTV)とオーディオ広告を成長の柱として位置づけている。CTVは、従来のテレビ広告とデジタル広告の中間に位置し、ターゲティング精度の高さとリーチの広さを兼ね備えている。NetflixやDisney+といったストリーミングサービスが広告付きプランを導入する中で、CTV広告の市場規模は拡大を続けている。TTDは具体的なCTVの売上を公表していないが、動画広告全体では売上の40%以上を占めるとしており、この分野が同社の成長ドライバーとなっていることは明らかだ。

一方、オーディオ広告は、デジタル広告市場の中で比較的安価に取引されている分野とされる。グリーンCEOは「インターネット上で最も低価格な広告市場」と述べており、広告主にとってコストパフォーマンスの高い選択肢となり得る。SpotifyやApple Podcastsといったプラットフォームが成長する中、デジタルオーディオ広告の市場規模は拡大傾向にある。現時点でTTDの広告予算のうち、オーディオ広告の割合は5%程度にとどまるが、市場が成熟すれば、より大きな成長余地があると見られる。

これらの新たな広告市場において、TTDはどのように競争優位性を確立できるかが重要なポイントとなる。CTVでは、広告在庫の確保とターゲティング技術の向上が求められる。オーディオ広告では、広告主の認知拡大とROIの向上が鍵となる。これらの課題を克服できれば、TTDは今後の広告市場において、さらに強い競争力を持つ企業へと成長する可能性がある。

Source:AdExchanger