半導体大手アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)の株価は、2024年3月に過去最高値である200ドル超を記録した後、下落傾向にあった。特に、2025年度第4四半期の決算では売上高とEPSが市場予測を上回ったものの、データセンター部門の収益が予想を下回り、決算発表後に10.07%急落した。

こうした中、AMDの最高商務責任者(CCO)であるフィリップ・グイド氏が約50万ドル相当の自社株を購入したことが明らかになった。これは2012年以来、約13年ぶりとなる幹部によるインサイダー買いであり、市場にとっては注目すべき動きといえる。

一方で、AMDの他の幹部たちはここ数カ月間にわたり大規模な株式売却を行っており、今回の購入が強気のシグナルと断言するには慎重な判断が求められる。AI市場での競争が激化する中、AMDの成長戦略と今後の株価の動向が引き続き注視される。

AMD幹部の売買動向が示す市場心理の変化

AMDの最高商務責任者(CCO)であるフィリップ・グイド氏が、約50万ドル相当の自社株を購入したことは、同社の株価動向に一定の影響を与えた。だが、それ以上に注目すべきは、過去数カ月間にわたり他の幹部が大規模な株式売却を行っている点である。

リサ・スーCEOは、2024年9月から12月にかけて、合計で約3,390万ドル(約50億円)相当のAMD株を売却した。この規模の売却は単なる資産整理とも考えられるが、投資家心理に与える影響は大きい。幹部による売却は、しばしば株価下落のシグナルと解釈されるため、市場の一部では警戒感が強まった可能性がある。

一方で、グイド氏による購入額は50万ドルと比較的小規模であり、これが強気の転換点となるかは不透明だ。企業の成長性に確信を持つ幹部が積極的に自社株を購入する場合、通常はそれが市場にポジティブなメッセージとして受け取られる。しかし、今回の購入規模を考慮すると、単なる個人的なポートフォリオ調整の一環である可能性もある。

市場心理をさらに左右するのは、AMDの成長戦略である。AI関連市場での競争が激化する中、AMDがどのように収益基盤を強化するのかが焦点となる。エヌビディアが圧倒的なシェアを握る中、AMDが新たな技術革新を示せるかが今後の株価動向を左右する要素となるだろう。

データセンター部門の低迷が示唆するAMDの課題

AMDの2025年度第4四半期決算において、データセンター部門の収益が市場予想を下回ったことは、多くの投資家にとって意外な結果だった。特に、この部門はAI市場の拡大とともに成長が期待されており、競合のエヌビディアが同分野で急成長を遂げている状況と比較すると、AMDの苦戦が際立った。

AMDのデータセンター事業は、主力製品であるEPYCプロセッサを軸に展開されている。これまでクラウド事業者や企業向けの需要拡大に支えられてきたが、今回の決算ではこの需要が期待ほど伸びていないことが示された。一方で、AI向けのアクセラレータ市場ではエヌビディアのH100が圧倒的なシェアを占めており、AMDのMI300シリーズはまだ市場での地位を確立しきれていない。

こうした状況は、今後のAMDの戦略に影響を及ぼす可能性がある。現在のAI市場では、エヌビディアの技術的優位性が明確であり、AMDがこれに対抗するためにはさらなる研究開発投資が不可欠となる。また、サーバー市場においても、インテルが新世代チップを発表する予定であり、競争環境は一層厳しくなるとみられる。

今後の成長を維持するためには、AMDがデータセンター市場での競争力を強化し、エヌビディアに対抗できる製品ポートフォリオを構築できるかが鍵となる。グイド氏の株式購入がこれに対する自信の表れなのか、それとも一時的な市場調整なのかは、今後数四半期の業績推移を見極める必要があるだろう。

AMD株の将来性と市場の期待

今回のインサイダー購入が市場にどのような影響を与えるかは、今後の業績と技術開発の進展に左右される。AMDはAI市場において存在感を強めようとしているが、競争の激化がその成長を阻害する可能性も否定できない。

AI関連市場の成長は続いており、大手テック企業はデータセンター向けの投資を拡大している。この流れに乗るために、AMDは新製品の開発を加速する必要がある。特に、MI300シリーズがエヌビディアのH100にどこまで対抗できるかが、今後の株価に影響を与える要因となるだろう。

また、マクロ経済の動向もAMDの株価に影響を及ぼす可能性がある。米国の金利政策や景気後退リスクは、ハイテク企業の成長戦略に影響を与える要素となる。半導体業界は景気の影響を受けやすい業種であり、特にデータセンター市場の需要減退が続けば、AMDの収益成長にブレーキをかける可能性がある。

AMDの長期的な成長ポテンシャルを考慮すると、今回のインサイダー購入が示すメッセージは決して軽視できない。ただし、短期的な市場の反応に過度に依存するのではなく、技術革新や市場競争の変化を見極めることが、より確実な判断につながるだろう。

Source:Finbold