Salesforce Inc.(ティッカー: CRM)の株価は現在325.22ドルで推移しているが、バンク・オブ・アメリカ(BAC)は同社の「買い」評価を再確認し、目標株価を440ドルに設定した。これは現在の株価から約36%の上昇を見込んでおり、成長再加速の可能性を示唆している。
アナリストのブラッド・シルズ氏は、ソフトウェア支出環境の改善とSalesforceの新たなAgentforceサイクルの導入が、2026年度末までに12%から13%の成長を達成する原動力になると予測している。
さらに、同社の生産性向上を通じた利益率の拡大への取り組みは、ソフトウェア業界における「適正価格での成長(GARP)」銘柄としての魅力を高めている。
Salesforceの成長戦略と「Agentforceサイクル」の役割

Salesforceは長年にわたりCRM(顧客関係管理)の分野で業界をリードしてきたが、近年は新たな成長戦略として「Agentforceサイクル」の導入を進めている。このサイクルは、営業担当者やカスタマーサポートの生産性を飛躍的に向上させる新たなアプローチとされ、企業の業務効率化を後押しするものだ。
特に、AIを活用した業務の自動化やデータ分析の強化により、顧客対応の質を高めることが期待される。AI主導の予測分析を取り入れることで、最適な営業機会を特定し、パーソナライズされたアプローチを実現する。さらに、カスタマーサポートの分野では、ボットによる一次対応の強化と人的リソースの最適化が進められており、企業のコスト削減にも寄与するとみられる。
こうした取り組みにより、Salesforceは従来のCRM市場にとどまらず、デジタル変革を進める企業にとって不可欠なプラットフォームへと進化しつつある。バンク・オブ・アメリカの目標株価引き上げの背景には、この新戦略の成功が織り込まれている可能性が高い。今後、Agentforceサイクルがどの程度の業績向上をもたらすかが、Salesforceの市場評価を左右する重要なポイントになるだろう。
利益率拡大のカギを握る「GARP」戦略とは何か
Salesforceの株価が大幅な上昇を見込まれる要因の一つに、「GARP(Growth at a Reasonable Price)」戦略がある。これは、成長性と適正なバリュエーションを兼ね備えた企業に投資する手法であり、Salesforceはこの条件を満たす企業の一つとして市場から評価されている。
GARP戦略の成功には、単なる売上成長だけでなく、利益率の拡大が欠かせない。Salesforceはここ数年、コスト削減と業務効率化を進めており、特に営業プロセスの自動化やクラウドインフラの最適化を推し進めている。これにより、売上成長と利益率向上の両立が可能になると考えられている。
また、Salesforceの顧客基盤は非常に広範囲にわたり、大企業から中小企業まで多様なニーズに対応している。この柔軟性が、景気変動の影響を受けにくい要因の一つとなり、安定した成長を維持するための強みとなっている。バンク・オブ・アメリカが強気の目標株価を設定した背景には、こうした利益率向上の取り組みと、それに基づく安定した成長の可能性が反映されていると考えられる。
市場の慎重な姿勢とSalesforceの今後の展望
バンク・オブ・アメリカによる目標株価の引き上げが発表されたにもかかわらず、Salesforceの株価は大きく上昇することなく、むしろ小幅な下落が見られる。これは市場全体のセンチメントが依然として慎重であり、投資家が具体的な成果を見極めようとしているためと考えられる。
特に、最近の業績発表では、SalesforceのcRPO(Current Remaining Performance Obligation)が市場予想を1%上回る結果となったものの、これが株価の大きな押し上げ要因にはならなかった。このことからも、投資家は同社の成長戦略がどの程度実現可能かを慎重に評価しているとみられる。
一方で、Salesforceの成長余地は依然として大きい。クラウドサービス市場は今後も拡大が見込まれ、企業のデジタル変革が進む中で、CRM市場における同社の優位性は揺るぎないものと考えられる。Agentforceサイクルの導入による営業効率化や、利益率拡大を目指したGARP戦略の成功が確認されれば、投資家の信頼を取り戻し、株価の上昇につながる可能性は十分にある。
今後、Salesforceの業績動向や市場の反応を注視することで、同社が持続的な成長を遂げるかどうかが明らかになってくるだろう。
Source:Wall Street Pit