台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング・カンパニー(TSMC)は、世界の半導体ファウンドリー市場で60%以上のシェアを誇る。エヌビディア、アップル、AMDといった大手企業の先端チップ製造を担い、人工知能(AI)市場の急成長により、今後も需要の拡大が見込まれる。一方で、中国による台湾への軍事的圧力や米国の技術規制強化など、地政学的リスクがTSMCの株価に影響を与える可能性がある。

TSMCは2025年に2ナノメートルプロセスの導入を予定しており、サムスンやインテルとの競争が激化する見通しだ。2025年の株価は12人以上のアナリストによって210.79ドルと予測されているが、一部では183.92ドルまでの下落リスクも指摘されている。アリゾナ、ドイツ、日本での生産拠点拡大により供給網の多様化を進めるが、コスト上昇が課題となる。

AIチップ市場の成長がTSMCにとって追い風となる一方で、半導体業界特有の景気循環や供給過多のリスクにも注意が必要だ。TSMCの今後の成長は、技術革新と地政学的リスクへの対応力にかかっている。

TSMCのアリゾナ工場計画と米国の半導体戦略

TSMCは、地政学的リスクの分散と米国市場への対応を目的に、アリゾナ州に新たな半導体工場を建設している。このプロジェクトは、米国政府の「CHIPS法」による補助金の支援を受け、総投資額は400億ドルを超える。2024年末には5ナノメートルプロセスの生産が始まり、2026年には3ナノメートルの製造も計画されている。しかし、現地の労働力不足やサプライチェーンの問題が進行を遅らせる要因となっている。

また、TSMCは米国での研究開発を強化する方針を示しており、米国内のチップ製造能力を高めることを狙う。エヌビディアやアップルなど、主要顧客は米国工場からの供給を求めており、TSMCのアリゾナ工場は重要な拠点となる見込みだ。ただし、米国の製造コストは台湾に比べて高く、価格競争力を維持するためには政府の支援が不可欠とされる。

一方、米国政府の半導体戦略は、TSMCだけでなくインテルやサムスンなどの競合企業も支援しており、TSMCの独占的な地位が揺らぐ可能性もある。特に、インテルは米国内での最先端プロセス開発を進め、TSMCの顧客を奪う動きを見せている。こうした状況を踏まえ、TSMCがアリゾナ工場を成功させるには、技術革新と生産効率の向上が鍵を握ることになる。

台湾の半導体産業が直面するサプライチェーンの課題

TSMCを中心とする台湾の半導体産業は、原材料の供給や製造機器の調達において依存度が高い。特に、オランダのASMLが製造する極端紫外線(EUV)リソグラフィ装置は、TSMCの先端チップ生産に不可欠であり、供給が滞れば競争力に大きな影響を及ぼす。2024年には、米国政府が中国へのEUV技術の輸出規制を強化し、ASMLの出荷にも制約がかかる可能性が指摘されている。

さらに、台湾は水資源や電力供給にも課題を抱えている。半導体製造には膨大な水と電力が必要であり、台湾当局はTSMCの成長を支えるためにインフラ整備を急いでいる。しかし、気候変動の影響で水不足が深刻化すれば、TSMCの生産計画に影響を及ぼすリスクがある。特に、2021年には台湾全土で深刻な干ばつが発生し、TSMCは一部の生産を調整する必要に迫られた。

また、半導体の材料供給では、日本や韓国、米国からの輸入依存度が高く、貿易摩擦が発生した場合には供給網が混乱する可能性がある。たとえば、2019年には日本がフッ化水素などの半導体材料の輸出規制を強化し、韓国の半導体企業に大きな影響を与えた。同様の制約が台湾にも適用されれば、TSMCの生産計画に影響が出る可能性がある。こうしたリスクを回避するためには、台湾政府と企業が協力し、サプライチェーンの多角化を進める必要がある。

AIブームがTSMCの成長を加速させる可能性

人工知能(AI)の急速な発展が、TSMCの成長を支える主要要因となっている。特に、エヌビディアのAI向けGPU「H100」や、AMDの「MI300」などの半導体需要が急増しており、TSMCはその製造を担っている。2024年には、AIサーバー市場が前年比30%以上の成長を遂げると見られ、TSMCの収益にも好影響を与える可能性がある。

一方、AIチップの進化に伴い、半導体の消費電力や発熱量の管理が重要な課題となっている。TSMCは、次世代プロセス技術を駆使し、エネルギー効率の向上を図っているが、研究開発には巨額の投資が必要となる。特に、2ナノメートルプロセスの開発には1兆円規模の資本投入が必要とされ、競争力を維持するための資金調達が課題となる。

また、AIチップ市場は競争が激化しており、グーグルやアマゾン、マイクロソフトなどの大手テクノロジー企業が独自のAIプロセッサを開発している。これにより、TSMCの主要顧客が自社でのチップ生産を強化すれば、TSMCの成長に影響を及ぼす可能性がある。したがって、TSMCは単なる製造業者にとどまらず、設計や開発段階から顧客と協力する戦略が求められる。