高級電気自動車(EV)メーカーのルシッド・モーターズ(NASDAQ: LCID)の株価が急上昇し、2025年2月18日時点で$3.495に達した。この日は8%の上昇を見せ、過去1週間で28%の上昇率を記録している。
これは、2024年9月以来の高値水準であり、同社の株価が数か月にわたる低迷から回復したことを示している。ルシッドは2021年のIPO以降、生産目標の未達や財務上の損失、株式希薄化への懸念など、投資家の不安材料が続いていた。
しかし、今回の株価上昇は、2024年第4四半期の生産・納車実績が予想を上回ったことや、新型電動SUV「グラビティ」の市場投入予定、AI音声認識システム「ルシッド・アシスタント」の導入発表など、複数の要因が重なった結果と考えられる。さらに、EV市場全体の成長予測も追い風となり、投資家の楽観的な見方が広がっている。
ルシッドの生産体制強化と納車増加が示す成長の兆し

ルシッド・モーターズは2024年の年間生産台数が9,029台、納車台数が10,241台に達したと発表した。これは前年よりも多くの車両を市場に投入したことを意味し、同社の供給能力が向上していることを示唆する。また、これまでのルシッドは生産遅延や供給網の問題が指摘されてきたが、今回の実績はその課題を克服しつつある兆しといえる。
特に注目すべきは、納車台数が生産台数を上回った点だ。これは2023年以前に生産された在庫車両の販売が進み、顧客の需要が一定数存在することを示している。EV市場全体の成長が追い風となる中、ルシッドのような高級EVメーカーにとって、安定した納車実績の確保は今後の事業拡大に不可欠な要素となる。
しかし、競争が激化するEV市場では、生産台数を増やすだけでは成功は保証されない。テスラやBYDといった競合メーカーはすでに価格競争を加速させており、特にルシッドのような高価格帯のEVメーカーは市場の変化に適応する必要がある。今後、同社がどのような販売戦略を打ち出すのかが鍵となるだろう。
新型SUV「グラビティ」の市場投入が業績回復の決定打となるか
ルシッドが2025年に発売を予定している新型電動SUV「グラビティ」は、同社にとって重要な戦略的製品となる。SUV市場は世界的に需要が拡大しており、EV分野でも多くのメーカーが力を入れている。この流れの中で、ルシッドがSUV市場に参入することは、ブランドの成長にとって大きな意味を持つ。
「グラビティ」は、同社のフラッグシップセダン「ルシッド・エア」よりも市場に適したモデルとなる可能性がある。SUVは一般的に利便性が高く、ファミリー層や長距離移動を重視するユーザーに人気がある。ルシッドがこれまでターゲットとしてきた高所得層に加え、新たな顧客層を開拓する機会にもなり得る。
とはいえ、高級EV市場では競争が激化しており、メルセデス・ベンツやBMWなどのプレミアムブランドも次々と新型EVを投入している。ルシッドが「グラビティ」を成功させるには、価格設定や性能、充電インフラの整備など、総合的な戦略が求められるだろう。加えて、実際の納車が計画通りに進むかどうかも、投資家の信頼を左右する重要なポイントとなる。
財務リスクと株式希薄化の懸念は依然として重荷
ルシッドの業績回復が期待される一方で、財務面のリスクは依然として大きな課題となっている。2024年第3四半期の決算では、同社は9億9,250万ドルの純損失を計上し、売上高は2億ドルにとどまった。これにより、ルシッドは依然として収益化には至っておらず、財務の安定性に不安が残る状況だ。
同社の最大の支援者であるサウジアラビアの公共投資基金(PIF)は、ルシッドの成長を後押ししてきたが、新たな資金調達が必要となる可能性がある。過去にもPIFは追加出資を行い、資金繰りを支援してきたが、その一方で株式の希薄化(ダイリューション)が進み、既存株主の持分が減少するリスクも存在する。
アナリストの間では、ルシッドの財務健全性が中長期的な課題であるとの見方が強い。現在の株価は5か月ぶりの高値を記録したものの、根本的な収益構造の改善がなければ、長期的な成長は難しいとの指摘もある。ルシッドが黒字化への道筋を明確に示し、持続可能な成長を実現できるかどうかが今後の焦点となる。
Source:Finbold