インテル(NASDAQ: INTC)がASML製の次世代リソグラフィーマシンを本格稼働させ、30,000枚のウエハー生産に成功した。これは、同社が最先端プロセスである18A技術を推進する一環であり、競争が激化する半導体業界での巻き返しを狙った動きだ。
しかし、業界アナリストのミンチー・クオ氏は、この技術の歩留まりが20~30%と低迷している点を指摘。さらに、インテルは組織的な問題やサプライチェーンの課題を抱え、TSMC(台湾積体電路製造)に対する競争力を十分に確保できていない可能性があると分析する。
同時に、インテルの企業分割の可能性も市場の関心を集めている。ブロードコム(AVGO)による設計部門の買収案、TSMCの製造施設獲得の噂などが浮上し、もし実現すれば企業価値は最大35兆円規模に達する可能性がある。一方で、地政学リスクや規制当局の審査が障害となることも予想され、今後の展開が注目される。
インテルの18Aプロセスが直面する課題 歩留まりの低迷と競争環境の変化

インテルが導入したASMLのHigh-NAリソグラフィーマシンは、次世代の半導体製造に不可欠な技術とされる。理論上、この装置を活用することで極めて微細な回路パターンを正確に描画できる。しかし、インテルの18Aプロセスはその実用化において大きな課題を抱えている。
業界アナリストのミンチー・クオ氏によれば、インテルの**「Panther Lake」プロセッサのエンジニアリングサンプルの歩留まりはわずか20~30%**にとどまっている。この数字は半導体製造において極めて低く、量産化に向けた大きな障害となる。一般に、最先端のプロセスノードでは開発初期に低い歩留まりが発生することは珍しくないが、インテルが2025年後半の量産を目指す中で、競争力を維持するにはさらなる改善が不可欠となる。
一方で、TSMCやサムスンはすでに3nmプロセスの量産を進めており、インテルの技術革新のペースが追いつかなければ、市場での立場はさらに厳しくなる。特に、TSMCはアップルやエヌビディアなどの主要顧客を抱えており、安定した供給力を武器に市場を支配している。インテルが18Aプロセスで成功を収めるには、単に技術の向上だけでなく、サプライチェーンの強化や製造プロセスの最適化が必要となる。
企業分割の可能性 インテルの再編がもたらす影響
インテルの技術的課題と並行して、企業の分割の可能性も業界内で注目を集めている。報道によれば、ブロードコム(AVGO)がインテルの設計部門の買収を狙っているとされ、一方でTSMCが同社の製造部門を獲得する可能性が取り沙汰されている。
もしこのシナリオが実現すれば、インテルは設計と製造を分離することになり、業界全体の競争構造が大きく変化する。TSMCやサムスンのようなファウンドリーは、設計企業と協力しながら高品質な半導体を大量生産するビジネスモデルを確立しており、インテルがこのモデルを採用すれば、開発スピードの向上やコスト削減が期待される。しかし、インテルは過去に「垂直統合型」のビジネスモデルで市場をリードしてきた企業であり、分割が進めば従来の戦略から大きく方向転換することになる。
さらに、企業価値の評価も焦点となる。市場の予測では、分割が実現した場合のインテルの評価額は**1,670億~2,370億ドル(約25兆~35兆円)**に達する可能性がある。これは短期的には株主利益につながるが、長期的に競争力を維持できるかどうかは不透明だ。また、地政学的リスクや規制当局の審査が障壁となる可能性もあり、特に米政府がTSMCの米国進出を支援する一方で、インテルの分割に対してどのような判断を下すかが鍵となる。
ASMLマシンの導入が意味するインテルの戦略転換
インテルはASMLのHigh-NAリソグラフィーマシンをいち早く導入し、次世代プロセス技術での競争力を確保しようとしている。これまでの半導体業界では、リソグラフィー技術は製造プロセスの微細化を左右する最重要要素であり、TSMCやサムスンもASMLの技術を活用してきた。しかし、インテルがHigh-NA技術を先行して採用したことは、同社の競争戦略の転換を示している。
従来、インテルは独自の製造プロセスと技術開発を武器に市場をリードしてきたが、現在はTSMCやサムスンの後塵を拝している。そのため、ASMLの最新技術を活用することで、製造の効率化や生産能力の向上を目指していると考えられる。特に、極端紫外線(EUV)リソグラフィーの次世代版ともいえるHigh-NA技術は、微細化の限界を押し広げる可能性があり、成功すればインテルのプロセス技術が再び業界の最前線に立つこともあり得る。
しかし、技術革新だけでは市場の巻き返しは難しい。クオ氏が指摘するように、現在のインテルには組織的な課題やサプライチェーンの問題が存在し、これらを解決しなければ持続的な成長は難しいだろう。さらに、半導体業界ではエヌビディアの台頭やAIチップの需要増加が進んでおり、従来のプロセッサ市場の構造そのものが変化しつつある。
インテルは今後、製造と設計の分離戦略を加速させるのか、それとも独自技術の強化を軸に競争力を回復するのか、重要な岐路に立たされている。High-NA技術の導入が単なる技術革新に留まらず、企業戦略の根幹にどのような影響を与えるのか、今後の動向が注目される。
Source:Wall Street Pit