イーロン・マスク率いるスターリンクに新たな競争相手が浮上している。フランスの衛星通信企業ユーテルサット(Eutelsat、ETR: ETL)の株価が急騰し、欧州市場での存在感を高めている。

3月初旬、ユーテルサットの株価は35.74%上昇し、過去5日間で260.99%の急騰を記録。株価は現在€4.84(約5.18ドル)に達し、2025年の低迷を覆す勢いを見せる。背景には、ウクライナ向け通信事業の拡大計画があり、米国の支援縮小を見越した動きとみられる。

欧州では、スターリンクの代替手段としてユーテルサットの低軌道衛星「OneWeb」への需要が急増。一部アナリストは、米欧関係の変化がスターリンクの販売に影響を与え、ユーテルサットの成長機会を生んでいると指摘する。ただし、投資家の間ではこの急騰が一時的なものか、それとも長期的な成長の兆しなのか慎重な見極めが必要との声もある。

ユーテルサット株急騰の背景 ウクライナでの通信拡大が市場を動かす

ユーテルサットの株価が3月初旬に急騰した背景には、ウクライナ市場における通信事業の拡大がある。Financial Timesの報道によれば、同社はウクライナ国内での通信インフラ強化を目的とした交渉を進めているとされる。これにより、ロシアとの戦闘が続く中での通信維持が可能となり、軍事・民間双方にとって重要なインフラを確保できる見通しが高まった。

ウクライナでは、これまでスターリンクが主要な通信手段として活用されてきた。しかし、アメリカ政府による支援が長期的に縮小される可能性が指摘される中で、ユーテルサットの低軌道衛星「OneWeb」に対する需要が急速に増加している。スターリンクに依存していたウクライナ軍にとっても、複数の通信手段を確保することは重要であり、ユーテルサットの動きは戦略的に大きな意味を持つ。

市場関係者の間では、ユーテルサットの事業拡大が同社の財務基盤を強化し、長期的な成長につながる可能性もあると見られている。ただし、現在の株価急騰がウクライナでの展開に関する一時的な期待に基づいている場合、将来的な調整も避けられない。短期間での市場の熱狂が冷めるか、それとも長期的な成長のトレンドへと移行するかが注目される。

欧州市場でスターリンクの競争力低下 ユーテルサットに追い風

ユーテルサットの躍進には、欧州におけるスターリンクの競争力低下も影響している。Oddo BHFのアナリスト、ステファン・ベヤジアン氏によると、米国と欧州の緊張関係がスターリンクの販売に悪影響を及ぼし、ユーテルサットのOneWebが代替手段として台頭しているという。特に、衛星通信を求める企業や政府機関が、一社独占のリスクを回避するために選択肢を増やす動きを見せていることが背景にある。

イーロン・マスクの政治的スタンスも影響を与えていると考えられる。マスクは米国のドナルド・トランプ前大統領との関係が深いとされ、これが欧州市場でのブランドイメージに悪影響を及ぼしている可能性がある。フランスでは最近、テスラ車の焼却事件が報じられるなど、彼の企業全体に対する反発も見られる。これにより、スターリンクの市場シェアにも影響が出ることは避けられないだろう。

一方で、スターリンク自体も技術的な課題を抱えている。2024年には新型衛星の放射線レベルに関する懸念が報じられたほか、2025年には衛星の軌道離脱の増加が指摘されている。こうした問題が解決されなければ、企業や政府機関がより安定した通信手段を求める流れが加速し、ユーテルサットにとってさらなる追い風となる可能性がある。

ユーテルサットの株価は今後も上昇するのか

ユーテルサットの株価は短期間で急騰したが、今後も上昇を続けるかどうかは慎重な見極めが必要だ。同社がウクライナでの事業を本格的に拡大すれば、政府や民間企業からの資金支援が期待され、長期的な成長が見込まれる。ただし、市場の動向は不透明であり、一時的な投機的資金の流入によるバブルの可能性も排除できない。

特に、2025年に入ってから金融市場は大きく変動しており、地政学リスクやマクロ経済の影響を受けやすくなっている。ユーテルサットが今後も成長を続けるためには、ウクライナ市場だけでなく、他の地域でも確実な需要を確保することが鍵となる。

また、スターリンクとの競争が激化する中で、ユーテルサットが技術的な優位性をどのように確保するかも重要だ。低軌道衛星の市場は急成長しているが、新規参入企業も増えており、競争環境はより厳しくなっていく可能性が高い。ユーテルサットの株価が今後も上昇を続けるか、それとも市場の調整が入るのか、引き続き注視する必要がある。

Source:Finbold