ドナルド・トランプ前大統領が提案した「外部歳入庁(External Revenue Service、ERS)」の設立計画が、米国経済や株式市場に新たな波紋を広げている。この計画は関税収入に基づく財政体制への移行を目指し、IRSの廃止や所得税の大幅削減を視野に入れている。ERSの設立が実現すれば、多くの米国民が所得税の支払いを免れることとなり、消費支出や貯蓄が急増すると予測される。

この政策により、特に金融サービス業界、消費財、そして高級ブランド分野で恩恵を受けると考えられる3つの銘柄、チャールズ・シュワブ(SCHW)、ターゲット(TGT)、タペストリー(TPR)が注目されている。これら企業の現状や期待される影響を通じて、トランプ氏の提案がもたらす可能性について深掘りする。

外部歳入庁がもたらす税制変革と関税収入への依存構造

トランプ前大統領が提案した外部歳入庁(ERS)は、米国の税制構造を根本から変える可能性を秘めている。この機関は、関税収入を主要な財源とし、内国歳入庁(IRS)の役割を縮小または完全に代替することを目的としている。トランプ氏は、すべての輸入品に対して10%から25%の関税を課し、中国からの輸入品には最大60%の関税を適用すると表明している。これが実現すれば、米国政府の収入源は所得税から関税へと大きくシフトすることになる。

関税収入への依存が強まることで、国内産業の競争力向上が期待される一方で、輸入品価格の上昇が消費者負担を増加させる可能性もある。特に、ウォルマート(NYSE: WMT)などの輸入依存度の高い企業は、コスト上昇の影響を受けることが考えられる。逆に、国内生産を主力とする企業や、資本市場での投資機会が増加する金融業界は恩恵を受ける可能性がある。

しかし、この改革には議会の承認が必要であり、共和党が上下両院を掌握しているとはいえ、民主党の反発が予想される。また、関税収入が安定的な税収源となるかについても、輸入動向や貿易パートナーの対応次第で変動するリスクがある。関税政策が長期的に持続可能であるかどうかは、今後の経済環境や政局の動向に大きく左右されるだろう。

消費拡大の競争効果と市場の期待が高まる3銘柄

ERSの導入によって、米国民の可処分所得が増加すれば、消費行動の変化が市場に大きな影響を与える。特に、金融サービス、小売業、高級ブランド業界は、恩恵を受ける可能性が指摘されている。市場が注目するのは、チャールズ・シュワブ(NYSE: SCHW)、ターゲット(NYSE: TGT)、タペストリー(NYSE: TPR)の3社である。

チャールズ・シュワブは、個人投資家向けの取引プラットフォームを提供し、約9.92兆ドルの運用資産(AUM)を誇る。ERSが所得税の負担を軽減し、投資余力を高めれば、証券口座への資金流入が拡大し、同社の資産管理手数料や取引手数料収入の増加が見込まれる。2024年第3四半期には、「Schwab Wealth Advisory」への資金流入が前年比65%増となり、個人投資家の旺盛な投資意欲を示している。

ターゲットは、生活必需品から嗜好品まで幅広い商品を展開する小売大手である。ERSの影響で消費者の可処分所得が増えれば、特に裁量支出の増加が期待される。同社の株価は2024年第3四半期に22%下落したが、これは消費者の支出抑制によるものであった。所得税の負担軽減が現実のものとなれば、ターゲットの売上回復の可能性が高まるだろう。

タペストリーは、高級ブランド「コーチ」「ケイト・スペード」「スチュアート・ワイツマン」を展開する企業であり、高所得層向けの消費拡大が業績を押し上げる可能性がある。2024年には、カプリ・ホールディングスの買収を試みたが、米連邦取引委員会(FTC)による規制により阻止された。それでも、同社の売上と利益は好調を維持し、2025年度の年間利益予想を引き上げている。ERSが導入されれば、消費者の支出増加が同社の成長をさらに加速させるかもしれない。

経済と市場に与える潜在的リスクと長期的な展望

一方で、ERSの導入にはリスクも伴う。まず、関税収入に頼る財政体制は、国際貿易の変動に影響されやすい。米国が関税を強化すれば、貿易パートナーも報復関税を課す可能性があり、輸出産業に悪影響を及ぼす懸念がある。これにより、米国企業の競争力が低下し、雇用や経済成長にマイナスの影響をもたらす可能性がある。

また、所得税の削減が消費を押し上げるというシナリオも、実際には消費者の心理や市場の反応に依存する部分が大きい。たとえば、仮にERSが設立されても、関税による物価上昇が所得増加のメリットを相殺する事態になれば、実質的な消費拡大は限定的になるかもしれない。

さらに、議会の承認プロセスが複雑であり、政治的な駆け引きが続く中で、政策の実現性が不透明なまま市場が過剰に期待するリスクもある。特に、共和党と民主党の勢力バランスが変化すれば、この構想自体が頓挫する可能性も否定できない。

こうした要素を考慮すると、ERSによる市場への影響は短期的な楽観論にとどまらず、慎重に見極める必要がある。市場関係者は、政治情勢や関税政策の動向を注視しながら、長期的な戦略を立てることが求められるだろう。

Source:MarketBeat