米国の元下院議長ナンシー・ペロシ氏が、2024年12月から2025年1月にかけて大規模な株式取引を実施していたことが、提出書類により明らかになった。彼女はアップルとエヌビディアの普通株を売却し、代わりにアルファベットとアマゾンのコールオプションを取得している。特にアップル株の売却額は500万ドルから2,500万ドルとされ、彼女の最近の取引の中で最大規模となる。

さらに、エヌビディアの普通株1万株の売却に加え、コールオプションの行使と追加取得を実施。その他、パロアルトネットワークスやテンパスAIのコールオプションにも投資しており、全体として大規模なポートフォリオ調整が行われたことが分かる。

この取引は、ペロシ氏とその夫ポール・ペロシ氏による活発な投資活動の一環とみられる。しかし、議員としての影響力を考慮すると、こうした取引が公正な市場競争を損なう可能性についての議論も続いている。

ペロシ氏の取引が示すハイテク株の戦略的シフト

ナンシー・ペロシ氏が実施した取引は、単なる資産運用の一環にとどまらず、テクノロジー業界に対する戦略的な見解を示唆している。アップルやエヌビディアといった高成長株の売却と、アルファベットやアマゾンのコールオプション取得の選択には、市場のトレンド変化への適応が垣間見える。

アップルは、ハードウェア売上の成長鈍化と中国市場での競争激化が懸念材料となっており、エヌビディアはAIブームによる急騰の後、調整局面に入る可能性が指摘されている。一方、アルファベットとアマゾンは、それぞれAI関連事業とクラウドビジネスにおいて拡大戦略を進めており、今後の成長余地があると見られる。これらの動向は、ペロシ氏が短期的な利益確定を図りつつ、成長領域へのエクスポージャーを強化している可能性を示唆する。

この取引は、単なる個人投資の枠を超え、政治家としての影響力と市場の変化への適応能力を示す一例となる。議員の株式取引が政治的決定と関係する可能性がある点において、投資家はこうした取引を市場の先行指標として注視する価値がある。

規制の網をかいくぐる議員の株取引と透明性の課題

米国では、議員の株式取引に関する規制が存在するものの、その実効性には疑問が投げかけられている。2012年に制定された「ストック法(STOCK Act)」は、議員が職務上得た情報を個人的な投資に利用することを禁止し、取引の透明性を高めるため45日以内の報告義務を課している。しかし、この規制が十分に機能しているかについては議論が絶えない。

ナンシー・ペロシ氏の取引はすべて報告されており、形式的には規則に則っている。しかし、議員が政策決定に影響を与える立場である以上、市場動向に関する高度な情報を持つことは避けられない。そのため、一部の批判者は「法の抜け穴を利用した合法的なインサイダー取引」と指摘している。

実際、投資分析企業「Unusual Whales」によると、ペロシ氏のポートフォリオは2024年に70.9%の上昇を記録し、S&P 500の25%を大きく上回った。また、彼女以外の議員でも著しい運用成績を示す者は少なくない。ノースカロライナ州のデービッド・ラウザー議員は、ポートフォリオを140%成長させたとされている。こうした異常なリターンは、一般の投資家と異なる情報環境にあることを示唆するものとも言える。

市場関係者の間では、議員の株取引をより厳格に規制すべきだとの声も上がっている。特に、株式売買を全面的に禁止する案や、投資信託などを利用した受動的運用の義務化が議論されている。しかし、こうした改革は議員の強い抵抗に直面しており、実現には時間を要する可能性がある。

議員取引を追うETFの登場と投資家への影響

近年、議員の取引動向を追跡するETF(上場投資信託)が登場し、投資家の間で注目を集めている。特に「Unusual Whales」が運用する「NANC」と「KRUZ」は、それぞれ民主党と共和党の議員の取引を基にポートフォリオを構築するETFとして話題を呼んでいる。

これらのETFは、議員が行った取引をリアルタイムで追跡し、それに基づいて銘柄を選定する仕組みとなっている。ペロシ氏の動向を反映した「NANC」は、2024年のパフォーマンスで市場平均を上回るリターンを記録しており、議員取引が市場に与える影響の大きさを示している。

投資家にとって、こうしたETFは新たな指標となる可能性がある。伝統的な経済指標や企業決算と並び、議員の取引情報を投資判断の一要素として活用する動きが強まることが予想される。ただし、こうしたETFの成功は、議員の取引パターンが今後も市場平均を上回るリターンを生み出し続けるかどうかにかかっている。

規制強化の可能性が浮上する中、今後の市場環境次第では、議員の取引を参考にする投資戦略がリスク要因となる可能性もある。情報の透明性が高まることは望ましいが、一方で議員取引が市場に及ぼす影響が過度に強まることには慎重な視点も必要だろう。

Source:Investing