台湾積体電路製造(TSMC)の株価が、人工知能(AI)市場の成長を背景に急騰している。第4四半期決算では売上高が前年同期比37%増の269億ドル、純利益が同56%増の101億ドルを記録し、市場予想を上回る結果となった。AI向けチップの需要が急増し、3ナノメートル(nm)および5nm技術がTSMCの成長をけん引している。

同社は2025年の売上高成長率を20%台半ばと予測し、特にAIアクセラレータ関連の売上が前年比で倍増する見込みを示した。さらに、米国、日本、ドイツでの新工場建設を進め、生産能力の拡大を加速している。地政学的リスクが懸念される中でも、TSMCは業績の安定成長を維持し、投資家の関心を集めている。

AI向け半導体の需要拡大がTSMCの業績を押し上げる背景

TSMCの売上拡大を支えているのは、急成長する人工知能(AI)市場向けの半導体需要である。同社の最新の決算報告によれば、第4四半期における売上の53%が高性能コンピューティング(HPC)関連製品で占められており、この分野の売上は前年同期比で19%増加した。特にNvidiaをはじめとする主要顧客が採用するAIアクセラレータ向けの先端プロセスノードは、TSMCの成長を大きく押し上げている。

3ナノメートル(nm)および5nmプロセスの採用が急増しており、特に3nm技術は総ウェーハ売上の26%を占めるに至った。前四半期の20%、1年前の15%から急速に拡大しており、TSMCが次世代半導体の製造において圧倒的なシェアを握っていることを示している。一方で、スマートフォン向け半導体の売上は全体の35%にとどまり、過去の43%から減少傾向にある。これは、スマートフォン市場の成熟化が影響していると考えられる。

TSMCのC.C.ウェイ最高経営責任者(CEO)は、AIアクセラレータ市場が2024年に3倍の成長を遂げたのに続き、2025年にはさらに倍増するとの見通しを示した。TSMCはNvidiaのH100やB100といったGPUの製造を担っているほか、BroadcomやAMDなどのカスタムAIチップの受託生産でも強みを発揮している。これらの動向から、AI向け半導体市場は今後もTSMCの業績に大きな影響を与えると考えられる。

設備投資と海外展開が成長を加速させる要因

TSMCは積極的な設備投資を続けており、2024年の設備投資額は約300億ドルに達した。さらに、2025年には380億ドルから420億ドルへと投資額を増やす方針を明らかにしている。これは、急増するAIチップの需要に対応し、先端プロセスの製造能力を強化するためのものだ。特に、3nmおよび2nm技術への投資が重点的に進められており、TSMCはこれらの先端技術で競争優位を確立しようとしている。

海外展開も積極的に進められている。米アリゾナ州の工場はすでに生産を開始しており、さらに2つの新工場が建設中である。また、日本の熊本工場は第4四半期末に生産を開始し、ドイツでも新工場の建設計画が進んでいる。これにより、TSMCは地政学的リスクを分散させるとともに、米国や欧州の政府支援を受けながら現地生産体制を強化している。

ただし、新規工場の立ち上げにはコストがかかり、一時的に利益率を圧迫する可能性がある。TSMCは第1四半期の粗利益率を57%から59%、営業利益率を46.5%から48.5%と予測しているが、海外工場の稼働によるコスト増が2~3%の利益率圧縮要因となる見込みである。しかし、長期的に見れば、これらの投資はTSMCの成長を支える基盤となると考えられる。

競争環境と市場評価がTSMCの株価を左右する要因

TSMCは半導体製造業界で圧倒的な競争力を持つが、ライバル企業の動向も株価の行方を左右する要因となる。現在、主要な競争相手であるインテルは先端プロセス技術で後れを取っており、Samsungも量産技術の安定性で課題を抱えている。この状況下で、TSMCは5nmおよび3nm技術のリーダーシップを維持しており、市場での優位性を確立している。

しかし、米中間の技術摩擦が影響を及ぼす可能性もある。米国政府は先端半導体技術の対中輸出規制を強化しており、TSMCが中国企業向けに供給できる製品には制限がある。TSMCはこうしたリスクを「管理可能」としているものの、今後の規制動向が業績に与える影響は無視できない。

市場評価の面では、TSMCの株価収益率(PER)は2025年予想利益に対して24倍、2026年予想利益では20.5倍とされている。また、株価収益成長率(PEGレシオ)は1未満であり、成長株としては割安な水準と考えられる。UBSのアナリストであるランディ・エイブラムス氏は、TSMCの株価目標を1,200台湾ドルから1,300台湾ドルに引き上げ、「買い」推奨を維持している。

これらの要因を総合すると、TSMCの株価は引き続き成長が期待されるが、地政学リスクや新規投資によるコスト増といった要素を慎重に考慮する必要がある。市場の注目がAI半導体分野に集まる中、TSMCの競争力が今後どこまで維持されるかが鍵となる。

Source:The Motley Fool