中国の新興企業DeepSeekが開発した低コストAIモデルが市場の注目を集め、テクノロジー株に大きな波紋を広げた。特にNvidiaは、AI分野における優位性の低下を懸念する投資家の売りによって、時価総額が一日で5930億ドルも消失。これはウォール街史上最大の損失となった。
ナスダック指数は3.1%下落し、半導体メーカーやAI関連企業の株価も軒並み急落。市場関係者は、DeepSeekの技術革新がデータセンター需要を大きく変える可能性があると分析している。一方で、今回の売りは過剰反応との見方もあり、AI関連株の安値買いの好機と捉える投資家もいる。
DeepSeekの台頭がAI市場の構図を変える要因とは
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中国のスタートアップ企業DeepSeekが発表したAIアシスタントは、従来の大規模モデルとは異なり、少ないデータとコストで高性能を発揮する点が注目されている。特に、Appleのアプリストアで米国の競合であるChatGPTを上回るダウンロード数を記録したことは、市場の関心が高まっている証拠である。
DeepSeekのモデル「DeepSeek-V3」は、NvidiaのH800チップを用いてわずか600万ドル未満でトレーニングされ、同社の最新AI「DeepSeek-R1」は、用途によってはOpenAIのo1モデルと比較して20〜50倍のコスト削減が可能とされる。この技術革新は、クラウドベースのAIサービスの開発コストを劇的に引き下げる可能性を持つ。
一方で、これまでのAI市場は、データセンター向けの高性能GPUを提供するNvidiaやAMDなどが支配してきた。しかし、DeepSeekのような低コストで軽量なモデルが普及すれば、これまでの市場の力学が変化する可能性がある。特に、企業が自前の大規模データセンターを持たずにAIを運用できるようになれば、半導体メーカーの売上減少に直結する可能性がある。
この動向について、Annex Wealth Managementのチーフエコノミスト、ブライアン・ジェイコブセン氏は、「DeepSeekの技術は、半導体需要やデータセンターの必要性に大きな影響を与え得る」と分析する。一方で、Synovus Trust Companyのダニエル・モーガン氏は、DeepSeekのモデルがデータセンター向けではなく、スマートフォンやPC向けであることを指摘し、AI市場全体に与える影響は限定的であると見ている。
Nvidiaの時価総額急落が示す市場の不安心理
Nvidiaの時価総額が1日で5930億ドルも消失し、ウォール街史上最大の損失を記録したことは、投資家の不安心理がいかに大きいかを物語っている。Nvidiaの株価は約17%下落し、これは同社が昨年9月に記録した1日での最大損失の2倍以上に相当する。
この下落はNvidiaだけにとどまらず、AI関連企業全体に波及した。半導体メーカーのBroadcomは17.4%の急落を記録し、MicrosoftとAlphabetもそれぞれ2.1%、4.2%下落した。また、フィラデルフィア半導体指数は9.2%下落し、これは2020年3月以来の最大の下落率となった。
市場の混乱はアジア・欧州市場にも波及し、日本のソフトバンクは8.3%下落、オランダのASMLは7%下落するなど、世界的な売りが発生した。これは、DeepSeekの登場が「AIの革命」として受け止められ、既存のAI市場の成長シナリオに疑念を抱かせた結果ともいえる。
一方で、Nvidiaの技術優位性が一朝一夕に揺らぐとは考えにくい。同社は依然としてデータセンター向けGPUの市場を支配しており、企業の大規模AIモデルの開発には不可欠な存在である。DeepSeekの技術が市場を変える可能性はあるが、短期間でNvidiaの地位が脅かされると結論付けるのは時期尚早である。
中国AI技術の進化がもたらす「スプートニク・モーメント」
DeepSeekの登場は、AI市場における中国のプレゼンスを一段と高めるものとなった。これまで、中国のBaiduやAlibabaはOpenAIやGoogleと競争するAI技術を開発してきたが、米国企業との技術格差が指摘されていた。しかし、DeepSeekのモデルは、そのコスト効率の良さと高い性能により、この認識を覆しつつある。
DeepSeekのAI技術は、シリコンバレーの投資家からも注目を集めている。著名投資家マーク・アンドリーセンは、X(旧Twitter)上で「DeepSeek R1はAIにとっての『スプートニク・モーメント』だ」と発言し、1950年代の宇宙開発競争になぞらえた。この発言は、中国のAI技術が米国企業と対等に競争する段階に入ったことを示唆するものである。
DeepSeekの技術が広がることで、AIの開発コストが劇的に低下し、オープンソースAIの普及が加速する可能性がある。これにより、既存の商業AI企業はビジネスモデルの転換を迫られることになる。たとえば、OpenAIやGoogleは、高額なクラウドAIサービスを提供しているが、DeepSeekの技術を活用すれば、より安価な代替手段が登場する可能性がある。
ただし、DeepSeekの技術が実際にどこまでの影響を及ぼすかはまだ未知数である。中国政府の規制や米国の技術制裁が、同社の成長を妨げる可能性もある。また、商業利用においては、既存の大手AI企業が築いたエコシステムの中で競争する必要があるため、短期間で市場を席巻するのは容易ではないだろう。
それでも、DeepSeekの台頭は、AI業界全体の競争環境を根本から変える可能性を秘めている。これまでNvidiaを中心に成長してきたAI市場は、今後、より多様なプレイヤーによる競争の時代に突入することになるだろう。
Source:Investing.com