金融市場で高い知名度を誇るジム・クレイマーの発言は、時として市場の動きと逆に作用することがある。この“逆クレイマー効果”は、投資家の間でも広く知られ、ETFや取引ボットの戦略にも影響を与えてきた。
2024年12月20日、クレイマーはCVSヘルスのバランスシートを「理解しにくい」と評し、同社の状況を「危険」と警告。しかし、この発言後すぐに株価は動かなかったものの、約2週間後から急回復を見せた。
2025年2月19日時点でCVSの株価は66.01ドルに達し、クレイマーの警告後から48.80%上昇。年初来では47.05%の成長を遂げた。市場の好材料として、メディケア・アドバンテージの償還率引き上げや、決算の好調さが挙げられる。クレイマーの発言と実際の市場動向が乖離する事例がまた一つ増えた形だ。
クレイマーの発言は本当に市場を動かすのか?過去の事例から読み解く

ジム・クレイマーの発言が市場に与える影響は、単なる偶然ではないと考える向きもある。過去には彼の推奨銘柄が低迷し、否定した銘柄が急騰する事例が多く見られた。そのため、彼の発言を逆指標とする投資手法が注目され、「逆クレイマーETF」まで登場するに至った。
例えば、2022年にクレイマーが支持を表明したMeta(旧Facebook)は、その直後に株価が大幅に下落。一方で、彼が「危険だ」と発言したエネルギー関連銘柄は数カ月後に急騰した。これは単なる偶然なのか、それとも市場の心理的な反応が影響しているのかが議論の的となっている。
今回のCVSのケースでも、クレイマーの否定的なコメントの後に株価が下落することはなかった。しかし、市場が彼の発言を織り込む形で、その後の回復を見逃していた可能性はある。クレイマーの発言が影響力を持つのは間違いないが、短期的な反応と中長期的な動きにはズレが生じることもあるため、一概に彼のコメントが市場を直接動かすとは言えない。
CVSの株価回復を支えた要因 メディケア政策と好調な決算
CVS株の上昇は単なる市場の気まぐれではなく、いくつかの具体的な要因が絡み合った結果と考えられる。まず2025年1月、米国政府がメディケア・アドバンテージの償還率を4%引き上げる方針を示したことが、市場にとってプラス材料となった。CVSはCaremarkを通じてメディケア向けのサービスを提供しており、この政策変更が収益に好影響をもたらすと判断された。
また、2月12日に発表されたCVSの2024年第4四半期決算は、売上・利益ともに市場予想を上回る好成績だった。これが投資家の信頼を回復させ、株価の上昇を後押しした。特に、医療関連事業の収益が堅調に推移し、薬剤給付管理(PBM)部門の安定性が再評価された点が大きかった。
クレイマーの発言とは裏腹に、CVSの事業基盤は堅実であり、外部環境の好転も株価上昇を後押ししたと考えられる。市場が一時的な悲観論に流されず、実際の企業業績や政策の変化に注目したことで、今回の回復につながったのではないか。
クレイマー発言への市場の捉え方 今後の教訓とは
ジム・クレイマーの発言が投資判断の参考として一定の影響力を持つことは否定できないが、過去の事例を踏まえると、それに過度に依存するのは危険だ。特に今回のCVSのケースでは、クレイマーの発言だけを基に売却を決断した者が、結果的に株価回復の恩恵を逃した可能性が高い。
市場は多くの要因によって動くため、一人の評論家の意見だけで売買判断をするのは合理的ではない。クレイマーが発言した後の市場の動きを分析すると、短期的な反応が薄かったケースでも、中長期的に株価が逆方向に動く事例が見られる。この点は、今後の投資判断において重要な教訓となるだろう。
今回のCVSの例から学ぶべきことは、市場の動向を決めるのは単なるコメントではなく、企業の実績や政策変更といった本質的な要因であるという点だ。投資判断をする際には、話題性のある発言に振り回されるのではなく、より長期的な視点を持つことが求められる。
Source:Finbold