世界の半導体市場を牽引する台湾積体電路製造(TSMC)の株価は、過去1年で約50%上昇しながらも、時価総額は依然として1兆ドルに届いていない。同社はAppleやNvidiaなどのテクノロジー大手に不可欠な半導体を供給し、2025年にはファウンドリー市場の66%を独占する見通しだ。

一方で、TSMCには成長の余地が大きく残されている。2024年の売上高は過去最高の900億ドル超に達したものの、時価総額は9,821億ドルにとどまり、Nvidiaの3兆1,000億ドルとは大きな差がある。現在のAIブームが続けば、TSMC株の上昇余地は十分にあるだろう。

ただし、リスクも無視できない。台湾を取り巻く地政学的緊張や米中関係の変化は、同社の成長に影響を与える可能性がある。しかし、米国内での生産拠点強化などリスクヘッジの動きも進んでおり、今後の展開に注目が集まる。

TSMCが世界の半導体市場を支配する理由

TSMCは世界の半導体製造市場において圧倒的な地位を築いている。同社はAppleやNvidia、AMD、Broadcomといった業界の巨人にとって不可欠なパートナーであり、2025年までにファウンドリー市場の66%を独占すると予測されている。特に、最先端の3nmや5nmプロセス技術においては他の追随を許さず、次世代のAIや高性能コンピューティング(HPC)向けチップの需要増加を背景に、さらなる成長が期待されている。

AIの進化は、TSMCの需要をさらに押し上げる要因となる。AIモデルの高度化には、高性能な半導体が不可欠であり、その供給を支えるのがTSMCである。半導体の供給不足が続く中で、同社の重要性はますます高まっている。さらに、自動車、医療機器、防衛技術など、AI以外の分野でもTSMCのチップが不可欠な存在となっている。

一方で、TSMCの強みは単なる技術力だけではない。台湾のサプライチェーン全体が同社を支える構造となっており、素材、設備、研究開発の各分野で強固な基盤を持つ。このエコシステムの存在が、TSMCの競争力を長期的に支えている。ただし、この台湾集中のリスクが今後の課題となる可能性も否定できない。

TSMC株が低評価にとどまる背景と今後の展開

TSMCの2024年通年の売上高は約900億ドルを記録し、第4四半期(Q4)だけでも260億ドルを超えた。しかし、同時期の時価総額は9,821億ドルにとどまり、同業のNvidiaが3兆1,000億ドルに達していることを考えると、相対的に過小評価されているように見える。特に、Nvidiaの2024年度の売上高は609億ドルに過ぎず、TSMCの方が事業規模としては大きいにもかかわらず、時価総額に大きな差がある。このギャップは、TSMCが単なる製造請負企業として見られていることに起因している。

半導体業界では、設計と製造の間に大きな価値の差がある。NvidiaやAMDのように独自のブランドを持ち、高収益の設計ビジネスを展開する企業と異なり、TSMCは顧客の設計をもとに製造を行うため、市場の評価が抑えられる傾向にある。また、地政学的リスクも影響を与えており、台湾に本社を置くTSMCは、中国との緊張関係や米国の貿易政策の変化による不確実性を抱えている。

しかし、この状況は必ずしもネガティブな要素ばかりではない。TSMCはすでに米国での生産拠点拡大を進めており、これが市場の信頼を高める要因となる可能性がある。また、AI市場の成長が続けば、TSMCの製造能力への需要はさらに高まり、時価総額の上昇余地が大きく残されていると考えられる。

地政学的リスクがTSMCに与える影響と対応策

TSMCの最大のリスク要因の一つが、台湾をめぐる地政学的緊張である。台湾は中国にとって「一つの省」と位置付けられており、政治的な対立が続く中で、半導体の供給網が不安定になる可能性が指摘されている。特に、米国が台湾を支援する姿勢を強めていることに対し、中国が軍事的圧力を強める動きを見せており、TSMCにとっても事業継続のリスク要因となる。

こうした状況を踏まえ、TSMCはリスク分散策を進めている。米アリゾナ州での工場建設をはじめ、日本や欧州でも生産拠点を増やし、供給網の多様化を図っている。これにより、台湾依存度を下げるとともに、各国政府の支援を得る狙いがある。また、米国の補助金政策を活用することで、現地生産能力を強化しつつ、米国との関係をより強固にする動きも見られる。

一方で、これらの対応策にはコストがかかるという課題もある。最先端半導体の生産には高度な設備投資が必要であり、海外拠点の拡大は短期的には利益率を圧迫する可能性がある。しかし、長期的にはTSMCの市場支配力を強化し、地政学的リスクを最小限に抑える戦略として機能するだろう。

Source:Finbold