ドナルド・トランプ大統領は、米国における主権財産基金(ソブリン・ウェルス・ファンド)の設立を指示し、90日以内に計画を策定するよう財務顧問に命じた。

主権財産基金は通常、財政黒字国が余剰資金を運用するために設立するが、巨額の財政赤字を抱える米国にとっては異例の動きである。資金の調達方法や投資対象、汚職リスクへの対応など、依然として多くの疑問が残る。

トランプ氏は基金の活用先として、インフラ投資や製造業強化、さらには中国企業が保有するTikTokへの出資にも言及している。しかし、運用の透明性や法的枠組みの整備が求められる中で、実現可能性を巡る議論が加速することは避けられない。

米国の財政赤字と国家資産の活用—矛盾するファンド設立の根拠

主権財産基金(SWF)は通常、政府が蓄積した財政黒字や天然資源の収益をもとに設立されるが、米国は36兆ドルの国債を抱える財政赤字国家である。この状況でSWFを創設すること自体、他国のモデルとは大きく異なる。

トランプ氏は基金の資金源として関税収入や政府の資産を挙げたが、これには多くの課題がある。例えば、関税収入は国内企業や消費者に間接的な負担をもたらし、安定的な財源とは言い難い。また、政府資産の貨幣化についても具体的な詳細は不明であり、現金化が可能な不動産や鉱物採掘権が市場で適正価格で売却できるかは未知数である。

加えて、米国政府が管理する資産の一部は、国防や教育などの公共目的のために確保されており、無制限に換金できるわけではない。さらに、政府資産を売却することで短期的な収益を確保できたとしても、それは一時的なものであり、基金の持続可能な運用にはつながらない可能性がある。このような状況を踏まえると、財政赤字を抱えたままのSWF創設は、従来の経済理論とは相反する側面を持つと考えられる。

世界の主権財産基金と比較する米国のユニークな運用方針

世界の主権財産基金は、資源輸出国を中心に広がっており、ノルウェーの「政府年金基金」やサウジアラビアの「パブリック・インベストメント・ファンド」などが代表例である。これらのファンドは、石油や天然ガスの収益を長期的に管理し、国家の将来の財政安定を目的としている。

一方で、米国版のSWFは、既存の国債と財政赤字を抱えながらも、新たな投資手法を用いることが特徴となる可能性がある。例えば、トランプ氏が提案したインフラ整備や最先端技術開発への投資は、他国のファンドが主に資産運用による利益確保を目的とするのとは異なり、国家成長戦略の一環として機能することが期待されている。

また、米国は資本市場が高度に発達しており、政府が直接企業投資を行うことには慎重な姿勢を示してきた。これまでの財政政策と一線を画す形で国家ファンドを運用することは、米国経済にとって大きな転換点となる可能性がある。ただし、政府による企業投資が市場の自由競争を阻害するリスクも考慮する必要があり、運用の透明性と効率性が求められる。

汚職リスクとガバナンスの透明性—米国版SWFの信頼性は確保できるか

米国におけるSWF創設には、資金調達や投資戦略だけでなく、ガバナンスの透明性と汚職防止策が重要な課題として浮上する。

過去には、マレーシアの主権財産基金「1MDB」が政府高官によって不正利用され、総額45億ドル以上の資金が流出した事件が発生している。また、他国のSWFでも、政治的な影響を受けた投資や、政府関係者が個人的な利益を得るために利用した事例が報告されている。米国においても、基金が政治的な目的で利用されるリスクは否定できず、監視機関の設置や透明性の確保が不可欠となる。

トランプ政権は90日以内に具体的な設計を発表するとしているが、その中で利益相反の回避策や監督機関の役割がどのように定義されるかが鍵を握る。特に、政府の関係者が基金の運営に直接関与する場合、市場の信頼を得るための厳格な監視システムが求められる。

また、米国の資本市場は民間主導で成長してきた背景があるため、国家が主導するファンドがどの程度の影響力を持つのかについても慎重な検討が必要だ。仮に基金が民間企業の株式取得や資本注入を行う場合、政治的な影響を排除するための法的枠組みが不可欠となる。こうした問題をクリアできるか否かが、米国版SWFの実現可能性を左右する要因となるだろう。

Source:Investopedia