ウォーレン・バフェットが最新の株主への手紙で、米国の財政運営に対し警鐘を鳴らした。彼は「財政的愚行(fiscal folly)」が続けば、紙幣の価値は蒸発する可能性があると指摘。これまで強調していた「アメリカに逆らうな」という信念がやや弱まったことも読み取れる。
バフェットは、バークシャー・ハサウェイが依然として株式を紙幣よりも好んでいると明言し、歴史的なインフレ事例を引き合いに、米国も同様のリスクに直面する可能性を示唆した。実際に、米国のインフレ率は上昇を続け、消費者の購買力を蝕んでいる。
一方、FRBは政策金利の据え置きを続ける姿勢を見せるが、今後の財政政策次第ではさらなるインフレ圧力が高まる可能性もある。バフェットの警告は、単なる悲観論ではなく、慎重な投資判断を促すものと捉えるべきだろう。
バフェットが警告する「財政的愚行」とは何か

ウォーレン・バフェットが「財政的愚行(fiscal folly)」と呼ぶ問題の本質は、政府の財政運営の悪化にある。米国政府はここ数年、巨額の財政赤字を抱え続けており、2024年の時点で米国の連邦債務は約34兆ドルに達している。バフェットは、これが無秩序に拡大し続けることで、通貨の信頼性が損なわれる可能性を示唆している。
この警告の背景には、歴史的なハイパーインフレの事例がある。例えば、ドイツのワイマール共和国(1923年)や、1990年代のユーゴスラビアでは、政府の過剰な紙幣発行が通貨の価値を暴落させ、経済の崩壊を招いた。バフェットの懸念は、米国も同様の道をたどるリスクがあるという点にある。ただし、現時点では米ドルが国際基軸通貨としての地位を維持しており、これらの国々と同じ状況に陥る可能性は低いと考えられる。
しかし、バフェットが指摘するように、米国でも過去にインフレが深刻化した事例はある。特に1970年代のスタグフレーション(高インフレと経済停滞の同時進行)では、FRBがインフレ抑制のために急激な利上げを実施し、経済に深刻な影響を与えた。バフェットの言葉は、このような歴史的な危機を念頭に置きながら、現代の政策運営の危うさを示唆していると考えられる。
株式を選好するバフェットの投資哲学
バフェットは、バークシャー・ハサウェイの資産運用において、現金よりも株式を好む姿勢を明確にしている。これは、彼が一貫して主張してきた「インフレのリスクに対する最良の防御策は、価値を生み出す資産を持つこと」という考えに基づいている。固定金利の債券はインフレ下では実質価値が減少しやすいが、企業の株式はインフレ環境下でも価格が上昇する可能性があるためだ。
この方針を反映するように、バークシャー・ハサウェイは2024年末時点でApple(NASDAQ: AAPL)やAmerican Express(NYSE: AXP)などの株式を大量に保有している。一方で、キャッシュポジションも増加傾向にあり、約1600億ドルに達している。これは、適切な投資機会が不足していることに加え、バフェット自身が市場環境の不透明さを警戒している証拠とも言える。
また、バフェットは「アメリカに逆らうな」という持論を長年展開してきたが、今回の手紙ではその主張がやや控えめになっている。これは、米国経済の将来に対する確信が揺らいでいる可能性を示唆するものとも考えられる。とはいえ、彼が完全に米国株式市場を否定しているわけではなく、依然として長期的な成長に対する期待を持ち続けていることは明白である。
米国経済の行方と投資判断のポイント
バフェットの警告が示すように、米国の財政状況とインフレの動向は、今後の市場環境を左右する重要な要素となる。現在、米国のインフレ率はFRBの目標水準を上回る3%に達しており、経済全体に与える影響が注視されている。特に、2025年に向けて金利政策がどのように変化するかは、投資判断において大きなポイントとなる。
一方で、米国経済の根幹は依然として強固であり、失業率は歴史的に低水準を維持している。バフェットが株式を重視する理由の一つには、米国企業の競争力とイノベーションが引き続き経済成長を支えるという信念があると考えられる。彼の投資戦略は、短期的な市場変動に惑わされるのではなく、長期的な視点で資産を増やすことに重点を置いている点が特徴的だ。
今回のバフェットの手紙は、単なる警告ではなく、慎重な資産運用の必要性を強調するものとも言える。市場の不透明感が高まる中で、どの資産をどのタイミングで購入すべきかを見極めることが、今後の投資環境において極めて重要な鍵となるだろう。
Source:Finbold