テスラの自動運転技術「FSD(フルセルフドライビング)」が本当に安全なのか、多くの議論が交わされている。技術革新の象徴とされる一方で、死亡事故のデータが注目されているからだ。

テスラ車の自動運転モードに関連する死亡事故は、確認されたものだけで52件、未確認ながら報告されているものも55件にのぼる。特に、FSDがより自律的な運転を可能にするにもかかわらず、すでに2件の死亡事故が記録されている点が問題視されている。2024年には、オートパイロットおよびFSDの利用中に発生した死亡事故が計7件報告されている。

こうしたデータは、投資家にとっても看過できない。テスラはEVメーカーであるだけでなく、AI・自動運転技術のリーダーとして市場で評価されているからだ。2025年のテスラ株の強気予測は「ロボタクシー」や「オプティマス」などの新事業にかかっているが、安全性の問題が同社の成長戦略にどのような影響を与えるのか、今後の動向が注目される。

テスラFSDの事故データが示すリスクと技術的課題

テスラの自動運転システム「FSD(フルセルフドライビング)」に関連する死亡事故が複数報告されていることから、その技術的な課題が浮き彫りになっている。テスラのシステムは、完全な自動運転を目指しているが、現在のところドライバーの監視を前提とした「レベル2」の支援機能にとどまっている。

テスラFSDの特徴は、AIによる視覚認識に依存した運転制御だ。カメラベースのシステムを採用し、ライダー(LiDAR)を使用しないという独自のアプローチを取っている。しかし、悪天候や夜間などの条件下ではカメラの性能に限界があるとの指摘もあり、これが事故発生の一因となる可能性がある。

また、米国運輸省のNHTSA(国家道路交通安全局)は、テスラの自動運転モードが関与した事故を継続的に調査しており、2024年までにオートパイロットに関連する30件以上の死亡事故を分析している。これらのデータは、FSDの実用化に向けた技術的なハードルの高さを示しており、安全基準の明確化が求められている。

テスラの成長戦略における自動運転の位置付け

テスラは、単なる電気自動車メーカーではなく、AIとソフトウェアを駆使した技術企業としてのブランドを確立しようとしている。その中心にあるのがFSDであり、完全自動運転の実現が企業価値を押し上げる要素となっている。

イーロン・マスクは、FSDを活用した「ロボタクシー」構想を長年提唱しており、この事業が成功すれば、テスラは自動車販売だけでなく、移動サービスの提供企業としても市場での影響力を強めることができる。しかし、死亡事故のデータが示すように、安全性への懸念が解決されない限り、規制当局の承認を得るのは容易ではない。

さらに、FSDの進化はテスラの収益構造にも影響を及ぼしている。同社は、車両販売だけでなく、FSDのソフトウェア課金によるサブスクリプション収益を拡大しようとしているが、ユーザーが高額な料金を支払う価値があると判断するかどうかは、安全性と信頼性にかかっている。この点で、事故データの公表と透明性がテスラの将来を左右する重要な要素となっている。

テスラ株価の動向と市場の評価

2025年に入り、テスラの業績は納車台数の減少や収益の予想下振れなど厳しい状況にあるが、株価は依然として力強い動きを見せている。特に、FSDやAI技術への期待感が株価の支えとなっており、短期的な業績よりも長期的な成長シナリオに投資家の関心が集まっている。

テスラの株価は、2024年に前年比119.70%の上昇を記録し、414.92ドルに達した。さらに、2025年1月の決算発表後も急騰しており、市場はFSDやロボタクシーの実現可能性に対して楽観的な見方を持ち続けている。しかし、実際にこれらの技術が本格的に普及するかどうかは依然として不透明であり、安全性や規制の問題が解決しない限り、株価のボラティリティは高い状態が続くと考えられる。

また、テスラは他のEVメーカーと異なり、ハードウェアよりもソフトウェアに重点を置くビジネスモデルを展開しており、これが投資家の評価を二分している。FSDが本格的に市場に投入され、持続的な収益源となるかどうかが、今後のテスラの企業価値を大きく左右する要因となるだろう。

Source:Finbold