ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイは、アメリカン・エキスプレス株を約400億ドル相当保有しており、同社の大株主である。しかし、この事実だけで同社株を買うのは賢明ではない。
現在の株価は過去12カ月で50%以上上昇し、P/Eレシオをはじめとする各種バリュエーション指標が長期平均を上回っている。バフェットは割安な局面での投資を好むため、現在の水準では新規投資には慎重になるべきだ。
アメリカン・エキスプレスのビジネスモデルは魅力的だが、良い企業が常に良い投資対象とは限らない。
ブランド力と高所得者層に支えられる収益基盤
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アメリカン・エキスプレスは、競争の激しい決済業界において、独自のポジショニングを確立している。VisaやMastercardが広範な顧客層をターゲットにするのに対し、アメリカン・エキスプレスは富裕層に特化し、年会費の高いカードを提供することで高い収益性を維持している。特にプラチナカードやセンチュリオンカードは、旅行やラグジュアリーサービスを好む顧客層を引きつけ、手数料収入や加盟店からのリベートで安定したキャッシュフローを生み出している。
また、アメリカン・エキスプレスは独自の決済ネットワークを持ち、VisaやMastercardと異なり、自社で決済処理を行うことで手数料の最適化が可能となる。この垂直統合型のビジネスモデルにより、取引ごとの利益率が高く、競争優位性が確立されている。さらに、リワードプログラムの充実により、顧客のロイヤルティを維持しつつ、ブランドの高級感を強化している。
しかし、この強固なビジネスモデルにも関わらず、アメリカン・エキスプレスの現在の評価水準は慎重に見る必要がある。割高な株価が示すように、すでに市場は同社の成長力を十分に織り込んでいる可能性が高い。過去12カ月で50%以上の株価上昇を記録し、P/Eレシオは20倍を超えている。これにより、今後の利益成長が一時的に鈍化すれば、株価調整のリスクも考えられる。
バフェット流の買い時は「割安な危機時」にあり
ウォーレン・バフェットの投資哲学は、優良企業を割安な価格で購入し、長期的な成長を享受することにある。アメリカン・エキスプレスに対する彼の投資履歴を見ても、それは明確だ。最初の投資は1960年代、同社がスキャンダルに直面し、株価が大幅に下落したときだった。次の大規模な買い増しも、1990年代半ばの景気後退期であり、このときも割安な水準で株を取得している。
現在のアメリカン・エキスプレスの状況は、その当時とは大きく異なる。企業のファンダメンタルズは安定しており、成長戦略も明確だが、株価は歴史的な高値圏にある。バフェットは企業の将来性を見て投資を続けているが、それが「今買うべき理由」とはならない。むしろ、過去のパターンを考えれば、バフェット自身が新規投資を行うタイミングは、株価が大幅に下落した局面である可能性が高い。
バリュー投資の基本は、優れた企業を「適正な価格」で買うことにある。アメリカン・エキスプレスの事業が魅力的であることは疑いないが、過去のバフェットの投資スタイルを踏まえれば、現在の評価水準では慎重な姿勢を取るのが合理的だ。
市場の期待と現実のギャップに注目すべき理由
アメリカン・エキスプレスの株価が急上昇している背景には、金融セクター全体の堅調な成長がある。利上げ環境下では、カードローンや手数料収入が拡大しやすく、特にアメリカン・エキスプレスのような富裕層向けビジネスは景気の影響を受けにくいと考えられている。しかし、長期的にはこれが逆風となる可能性もある。
まず、現在の高い金利水準が維持される場合、消費者の支出行動が慎重になる可能性がある。特に富裕層といえども、資産価格の変動や投資環境の悪化が消費に影響を及ぼすことは過去の市場動向からも明らかだ。アメリカン・エキスプレスの収益基盤が高所得者層に依存している以上、金利動向や景気の変化には注意が必要だ。
また、市場はすでにアメリカン・エキスプレスの成長を高く評価し、それを株価に織り込んでいる。そのため、成長鈍化の兆候が現れれば、市場の期待とのギャップが大きくなり、株価調整のリスクが高まる。例えば、配当利回りはS&P500平均を下回る水準にとどまっており、成長株としての評価が維持されなければ、株主還元の面でも魅力が低下する可能性がある。
バフェットが長期的な視点でアメリカン・エキスプレスを保有しているからといって、今が最適な投資タイミングとは限らない。市場が過度に楽観的になっている局面では、慎重なアプローチが求められる。
Source:The Motley Fool